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問屋の仕事場から

2019.05.07
奥が深い亀甲絣 

亀甲絣は亀の甲羅の六角を絣で表したもので、反物の巾にいくつ亀甲を並べることができるかで100亀甲や160亀甲と呼称されています。

鶴は千年、亀は万年と言われる通り長寿のシンボルとして亀は吉祥文様として使われています。亀の甲の六角は六方に幸せを運ぶといわれ、中に他の紋を入れて家紋としたり、様々なアレンジで意匠化されてきました。

亀の甲の六角は亀甲紋として吉祥文様に多用される。

絣織物の技術が発展するにつれ、いつしか絣で亀の甲を現した六角文様が作られることになります。

はじめはどれも大柄で単純なものでしたが、絣技術の向上とともにその精緻さを極め、亀甲絣を組み合わせて柄が作られるまでになりました。

見本帳より古い結城紬、現在では考えられないほど巨大な亀甲絣が作られていた。

亀甲数が多くなればなるほど絣が細かくなりますが、大きさのバランス(小さすぎると亀甲に見えない)とコストもあってかトレンドは100亀甲、大島紬や結城紬の亀甲絣も100亀甲が主流です。しかし一口に100亀甲といっても、大島と結城は組織から違いますし、同じ織物でも異なる種類の様々な亀甲絣が作られています。

同じように見える亀甲絣について掘り下げてみましょう。

 

基本となるのは100亀甲絣

こちらは大島紬の100亀甲、男物の疋物(羽織+着物)として作られた定番の商品です。亀甲絣の中でも一番数が作られているといってよいくらいのスタンダード品です。

実際に亀甲の数を数えると100ではなく108の亀甲が並んでいます。一般的に100亀甲といえば普通巾(1尺:約38cm)の場合に100個並ぶということで、男物の広巾(1尺1寸)であればその分の亀甲が10%ほど増えます。巾が広く100個以上並んだ場合や、巾が狭く100個未満の場合も便宜上100亀甲とされています。

一列に100個並んでいるということはこの一面だけで数千個の亀甲が、一疋ですと70万個以上もの亀甲が敷き詰められていることになります。

 

組織を拡大していくと亀甲絣のお手本というべき真面目さが伝わってきます。

白枠で囲ったところが亀甲の柱、すべてが同じ絣糸であることがわかる。

亀甲の「柱」となる経絣の部分、2本の絣糸が隣接しています。絣糸2本、地糸4本ですので、組織的には二元越し、一元の5マルキより粗いということになります。しかし絣糸を2本引きそろえているせいか輪部がくっきり浮かびあがっています。亀甲の中の十絣も経糸、緯糸が2本づつ交差する一元絣で構成されているのがわかります。

実はほとんどの他の織物は亀甲の柱が一本の経絣糸、亀甲の中の十字絣もキの字になっています。

亀甲絣の成り立ちがどう異なるか、大島紬と双璧をなす結城紬で確認してみましょう。

100亀甲の詰め柄、幅が広いので実際に120近い亀甲が敷き詰められています。結城紬と大島紬はともに絹の絣織物ですが、糸の質、絣糸の作り方、織り方に至るまで全く異なるものです。結城紬に使う糸は手紬糸、絣は人の手による手括り、それらを地機で織り上げれば何とも味のある表情となって地風に現れます。

結城紬の100亀甲、結城紬は糸の太さが不均一な手紬糸なため表情が豊か。

組織を拡大してみます。

亀甲の柱である経絣糸が一本で、十字絣が経絣糸1本に緯絣糸2本で構成されるキの字であることがわかります。

矢印部分が亀甲の柱、隣接する亀甲のの柱を共有していることがわかる。

経絣糸1本、地糸5本の組織ですので経絣糸の比率は17%、先ほどの大島紬は絣糸2本、地糸4本となり33%になります。倍も違えば、太さが均一でない紬糸による粗さを差し引いてもやはり大島紬の100亀甲のコントラストが際立ってはっきりしていることがわかります。

 

そして同じ大島紬の100亀甲でも雰囲気が異なるものが存在します。

 

こちらは白大島の100亀甲、間違いなく亀甲が100個以上敷き詰められたものですが、先ほどの亀甲の商品と何か雰囲気が違います。

組織を拡大してみると、先ほどの組織と何ら変わることなく亀甲の柱は同じように2本を引きそろえたもので、亀甲の中の十字絣も経糸、緯糸が二本づつ交差する一元絣です。

しかし、よく見てみると、亀甲の斜面(屋根の部分)にあたる緯絣糸が2本しかないのがわかります。先の商品は屋根の部分の緯絣糸が3本で構成されていましたが、こちらは2本しかないため、一つ一つの亀甲がレンガのようにブロック状に見えます。同じ大島紬(奄美産地、手織り、100亀甲)でも少し組織が違うだけで、ずいぶん雰囲気が変わって見えるのです。

また、亀甲チラシと呼ばれる更に亀甲を簡略化した縞大島もあります。こちらは絣あわせをすることなく自動織機で織ることができるので、廉価品として販売されています。

 

亀甲絣で模様を作る

単体ではベンゼン環(六員環)のような亀甲絣でも数を集めれば柄を作り出すことができます。

こちらは本塩沢の十字絣模様、いえ実は亀甲絣で十字模様を作り出したものです。

わざわざ亀甲で柄作りをした粋なデザイン。

亀甲絣一粒をドットに見立てて、点描画のように柄をつくる意匠がいつ頃生み出されたか定かではありませんが、様々なデザインがされるようになりました。亀甲絣一粒が1ドットだとどうしても柄が粗くなってしまいますが「味」という観点では見る人を楽しませてくれます。

同じ点描画とも言える大島紬のカタス9マルキの雪輪と、結城紬の100亀甲の雪輪を比較してみました。

結城紬100亀甲の雪輪(左)、大島紬のカタス9マルキの雪輪(左)

同じ雪輪でも両者を並べてみると絣の密度が全く違うものです。大島紬の雪輪が輪部がはっきりと縁どられているのに対し、結城紬の100亀甲は予め雪輪の形状を知っているからこそ成り立つというレベルです。お気づきかもしれませんが、亀甲絣で絵柄を作り出すということは十字絣に比べて絣の交点が少なく、コストダウンにもつながっています。

 

この亀甲絣を全面に詰めて柄にしたのが亀甲絣の総詰柄、模様になる部分の亀甲を抜いて模様を作り出すわけです。

全面すべてが亀甲絣であれば3、4数種類の絣糸だけで済みますが、こうなると絣糸作りの手間が何倍にもなります。

 

また、経絣糸だけはすべて同じ絣糸を使い、緯絣糸だけ変化をつけるだけでも立派な絵絣を作ることができます。

経絣糸は一種類の絵絣、亀甲の中の十字絣に見える点も緯絣のみで構成。

こちらは総詰め柄の本塩沢、亀甲絣の柱の部分だけが残っている箇所や、中途半端に緯絣を入れている箇所、それらの組み合わせで複雑な柄を作り出しています。一見するとかにも手が込んでいて大変な模様に見えますが、経絣糸に関しては一種類しか使われていないのです。

 

 

絣が細かい160亀甲の織物

スタンダードな100亀甲ですが、更に細かい亀甲柄も作られています。100亀甲の組織の地糸を少なくしていけば、亀甲のサイズが小さくなりますので150亀甲や160亀甲になります。100亀甲と比較して明確に亀甲のサイズが小さくなるので、すぐに判別することができます。

こちらは160亀甲の綿薩摩、大島紬の親戚ともいえる別名薩摩絣と呼ばれる綿の最高級織物です。

びっしりと詰まった亀甲、反物の巾に亀甲が160個以上並んでいます。

先ほどと同様に組織を拡大、詳しく分解してみます。

絣糸1本に地糸3本、これは大島紬でいうところのカタスの7マルキの組織です。ちなみに結城紬の160亀甲も同じ組織になります。これ以上細かいと亀甲に見えなくなってしまいますし、ほんの一部の例外を除き、これ以上の細かい組織を作ることはしません。

結城紬の160亀甲絣、反物の巾に160もの亀甲が並ぶ。

160亀甲の組織ともなれば絣糸作り、絣あわせがかなり難しくなります。

絣を人の手で一つ一つ括って作る結城紬に至っては、160亀甲の詰め柄を作ろうとすれば幾万箇所におよぶ膨大な括り作業が必要となり、数年という歳月がかかります。仮に今から作ろうとしても受けてくれる職人がいるかどうかわかりません。一昔前までは作られていた結城紬の160亀甲の詰め柄は幻となってしまいました。

 

亀甲絣が細かければ高級品とは一概にいえない

一般的に亀甲の数が多くなれば絣作り、絣あわせが困難になります。しかし織物によって絣作りの方法、亀甲を構成する組織に違いがあり、細かければよいというわけはありません。

結城紬100亀甲(左)、大島紬160亀甲(中)、塩沢紬200亀甲(左)

左から結城紬の100亀甲、大島紬160亀甲、塩沢紬200亀甲となり、普通であれば亀甲が細かいほど高価格になります。200亀甲だからすごいとなるかもしれませんが、価格的には一番高価なのが100亀甲の結城紬、廉価なのは塩沢紬になるのです。その織物がどのように作られているかを知っていなければ、素人目には亀甲が多ければ高級なものだと思ってしまいます。

その絣糸がどのようにして作られているか、組織のこと、どのように織られているか、すべてを総合的に吟味して検討する必要があるでしょう。

マンガン染で作られた亀甲絣、絣あわせが不要な型捺染品である。

以上、絣織物の基本文様ともいえる亀甲絣についての解説でした。

 

続編では亀甲絣の精緻さの極みともいえる200亀甲の大島紬を紹介します。