大島紬の絣の細かさを表す「マルキ」という単位、初めて聞く人に…
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問屋の仕事場から
- 2017.09.14
- 本当に価値のある大島紬とは~マルキの定義~
大島紬の絣の細かさを表すマルキという単位、聞きなれない言葉ですが、マルキとは何ぞや、「マルキの見方」を解説していきます。
まず、マルキと言われているものは何を意味するかというと、生地における経絣糸の本数のことを指し、9マルキ、7マルキ、5マルキの3種類が一般に知られています。
それらマルキを求めるには以下の式を使います。
一反当たりの経絣糸の総本数 ÷ 80 = Xマルキ(小数点以下切り捨て)
この式を使い、冒頭の写真の柄が何マルキか解説していきます。
この式において変数は「一反あたりの経絣糸の本数」のみですので、この数字が判明すればよいことになります。
大島紬の経糸の本数は通常1240本で構成されています。織物は80本の経糸をまとめて一単位で数えますが、それを1算(ヨミ)といいます。経糸が1240本ということは15.5算と置き換えることができます。15.5算(1240本)の両耳端(40本×2)を除いた糸数は1160本です。一反を構成する1160本の経糸総本数に対して経絣糸がどれだけ入っているか、これを求めるわけです。
経の絣糸の本数を求めるために組織を詳しく見てみます。
地糸が3本、絣糸が2本、合計5本の繰り返しが続きます。このうち絣糸の割合は40%ですから経糸の総本数(1160本)に割り当てると、経絣糸の総本数は464本であることがわかります。
この数字を式に当てはめてみましょう。
464(経絣糸の総本数)÷ 80(一算:定数)= 5.8
小数点以下を切り捨てると5になり、写真の柄は5マルキ(奄美方言でイツマルキ)となるのです。
組織を分解して経絣の割合を求めることでその品物が何マルキか判別がつきます。7マルキ、9マルキも含めて一覧表にしてみました。
経絣糸の割合の最高は9マルキ一元の66%です。この9マルキ一元が技術的に最高の大島紬といえます。絣の多さから製造は困難を極め、価格もそれに見合ったものになりますが、いずれ項を改めて商品紹介させていただきます。また、5マルキ以下はマルキと呼称しません。地糸が4本になれば二元越(フタモトゴシ)といいます。
また、経糸の本数がイレギュラーなケースや割り込み式といった特殊な場合、6マルキや8マルキも存在しえます。
以上、マルキを求める際の公式を理解いただけたと思いますが、なにか腑に落ちないと思われた方もいると思います。この公式をカタスの商品に適用すると呼称と違うマルキ数になるからです。同じように一覧表にしてみます。
マルキに換算すると、半分ほどの数字にしかなりません。本来であれば9マルキカタスは4マルキと呼称しなければいけないはずです。しかし現在は誰もそのような呼び方はせず、単純に9マルキとのみ言います。なぜでしょうか。
従来大島紬は一元絣を基本にして織られていました。しかし手間が省けるカタスにほとんどが移行してしまったことを前回の項で記しました。そうすると新しい方式(手抜き方式とも)であるカタスはマルキ換算でどうも商品訴求力に劣ることになってしまいます。なので実際は4マルキしかなくても無理やりに「9マルキのカタス(方数)」と表現したのです。厳密にいえば偽物の9マルキなのです。他に9マルキ式などという紛らわしい呼称もありますが同じことです。
頑なに伝統を守って一元を作っているほうからすると歯がゆかったに違いありません。何しろ同じ9マルキと呼称しておきながら、経絣糸の数は一元の5マルキ(464本)より9マルキカタス(386本)数のほうが大幅に少ないのです。時代が時代であれば誤認表示にあたります。しかしこの騙し表現ともいえる言い方が広く浸透してしまったのです。一元がほとんどなくなってしまった現在ではすでに「カタス」という言葉すらとれて堂々と9マルキと言われています。まさにシシャモ状態、本物の9マルキにはわざわざ強調して「本9マルキ」や「一元絣」と記載される事態です。
ほとんどの商品がカタスとなってしまった今、現在の定義は前述の式の解に、2を乗するようになってしまいました。不可解な「×2」をする背景をこれを機会に是非覚えておいてください。しかしもし本当にそうなるとしたら一元の9マルキは19マルキになってしまい、珍品扱いされている15マルキや18マルキにも勝ってしまう滑稽なものです。これを矛盾しないように説明するとなると、経糸の絣糸の密度をあらわすものが、いつの間にか緯糸の密度に置き換えられたと考えるのが自然です。
最後にもう一度、先ほどの表をまとめて一覧にしてみます。経絣糸の割合、本数を比較することで本当に付加価値のある大島紬がどれか、おのずとわかるはずです。
続編では高精細化路線を走る商品の問題について考えます。