大島紬の最大の魅力は精緻な絣によるバリエーション豊かで美しい…
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問屋の仕事場から
- 2018.11.12
- 力強い一元絣の大島紬
大島紬の絣には一元絣とカタス式がありますが、その高コスト故に一元絣は少数派になってしまいました。人が着物を選ぶときにはまずデザイン(カラー)が最優先され、次に価格の折り合いがつくかです。多くの人にとってマニアックな技術云々は三の次以降でしょう。しかし趣味性の高い紬、織物工芸の繊細さの極致ともいえる大島紬はことんこだわりたいものです。絣糸二本同士がガッチリと組み合わさり、地色からパッチリと浮き出る力強い一元絣の魅力を紹介します。
一元とカタスの違い、ざっくりと説明すると経絣糸が2本連続しているのが一元、経絣糸が一本だけなのがカタス(片数)です。経絣糸を2本連続させて並べるということは絣の面積がその分だけ大きくなり、地糸から模様がしっかりと浮かび上がります。
倍の絣糸を作るコストに加え、絣合わせが難しくなることから、現在は一元絣の大島紬は特殊品といえるくらい少数派になってしまいました。
今回、同じ織元、同じ柄で一元とカタスを比較することができましたので、比較してみます。
左が9マルキ一元絣(経絣糸比率66%)、右が9マルキカタス(経絣糸比率33%)の商品、両者ともに麻型の柄です。ピッチも全く同じで経糸の配列が異なるだけの商品です。写真では表現しにくいのですが、実際は絣の濃さが明確に異なります。素人目でみるとカタスは絣が小さく見えて繊細な気がしますが、両者を比較するとカタスはどこか薄っぺらく感じます。わかりやすくするため、同じ個所を拡大して並べてみます。
上の画像が一元、下がカタス、一元に比べてカタスはどこか柄がボヤっとしています。一元はコントラストが強く、地糸で構成される白場に対して絣がパチッと浮き上がってきています。織られて浮き上がってきてる絣の部分、一元は「井」、カタスは「キ」になります。左右対称な「井」のほうが力強く、バランスよく見えます。
今回の例のように柄が詰まっていると少しわかりにくいのですが、冒頭の写真のように地空きが大きい場合はよりその差が明確になります。
一元の7マルキ、多色使いの唐草の柄です。一つ一つのドット(絣)がハッキリと浮き上がり、力強い柄を構成しています。仮にこれをカタスで表現した場合、柄がぼやけてしまいいま一つ迫力に欠けることでしょう。
地糸が黒いと、絣が浮き出てくる効果が更に魅力を増します。
こちらの泥大島、格子の中に一元絣が配置されており、パッと浮き出る絣は夜空にきらめく星のようにみえます。これがカタスだったら、輝度が落ちてしまい、明るい一等星ではなくなってしまいます。
実は連続した2本の経絣糸で絣を作るということは他の織物では行われていません。倍の絣糸を作らなければいけませんし、絣合わせも大変です。絣の精緻さを極めた大島紬の織り子さんだけがそれを行うことができるのです。
参考に同じ絣柄の他の織物と比較してみます。
地色が異なりますが、左が大島紬の一元(7マルキ)、右が結城紬のカタスの絣、9個の絣が菱型を構成するまったく同じ柄です。先ほどの例の通り、淡い地色より濃い地色のほうが絣が浮き出て目立ちます。ところがどうでしょう、条件の悪い淡い地色の大島紬のほうが絣がパチッと出ています。一方の結城紬のほうは絣がはっきりせず、どこかぼんやり見えてしまいます。これを見れば2本の絣糸同士ががっちりと組み合った一元絣が放つ力強いパワーをご理解いただけたと思います。
コストを優先するあまり、大島紬でもカタスが主流になってしまいましたが一部の意欲的な商品がまだまだ作られています。一元絣はパッと見の外見からは判別がつかず、着る人の自己満足の世界かもしれません。しかしこだわりの一元絣は粋なファンの心をとらえ続けています。
いまとなっては一元絣の商品はレアな存在、自分の好きな柄であれば迷わずキープされることをお勧めします。