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問屋の仕事場から

2017.09.22
大島紬の柄 繰り返しパターン考察(上級編)

御所車

2回にわたって大島紬の柄が一つのデザインの繰り返しであり、そのパターンが巧妙に配置されていることを説明しました。上級編では最後に残った商品の解説、あっと驚く廣田紬独自のアイデアを公開します。

解説の前におさらい、写真の泥大島、見事に繰り返しパターンがわからないように配置されています。どのような柄の繰り返しかわかるでしょうか。前編では一つの柄をデザインして絣糸を作ってしまえば、織を工夫して柄を上下左右反転させ4パターンの柄を作り出せることを解説しました。少し凝視してデザインを分解してみてください。

非常に凝った大島紬

鏡裏文、宝鏡文と呼ばれる柄で、3種類の異なる華紋が配置されています。

ランダムに配置されているように見えますが、よく見るとパターンがあります。着物に仕立てて着用してしまえば、規則性があるとはまず誰も気にしないはずです。

答えはこちら

4パターンに分解

経糸方向を上にして1を基準にすると、2上下反転、3上下左右反転、4左右反転となる。

いかがでしょうか。いかに複雑な柄に見せるかがデザインの妙なのです。

本題に戻ります。前編の商品紹介写真を逆の位置から撮影。

4点の大島紬

笹を表現したカタス9マルキ泥染め、斜めに長く模様が続いています。一つの柄を追いかけていくと、他の商品と比較しても非常に長いことがわかります。そして柄が同じ方向を向いています(一方付)。締機で絣つくりをすると、繰り返し柄は上下反転して続きますが、この商品は最後まで一方付です。

 写真の範囲は畳一枚分ほどです。もしその距離の図案が繰り返しになっていれば、絣づくりが大変になり、高コスト化してしまいます。しかもこの商品は柄の上下反転がない一方付です。締機による柄の上下反転繰り返しを避けるために「袋締め」と呼ばれる技法もありますが、これまたコストアップにつながります。コストに糸目を付けず、柄の自由度を優先した商品は存在します。しかし実際にこの商品の価格は一般的なカタス9マルキの価格帯なのです。なぜでしょうか。

これは廣田紬のアイデア特許ともいえるもので、高コスト化することなくこのような柄のパターンを実現しています。図案を重ねながら種明かしをします。

図案を重ねた大島紬

元の図案を重ねてみると、枝の部分のデザインを工夫しすることで上手に柄の繰り返しになっていることがわかります。しかし今までのパターンですと続く柄は上下反転してしまい、枝が折れ曲がって表現されることになります。
一呼吸おいて笹の葉(濃い黒場)の部分だけに着目してください。こちらは左右上下反転のパターンであることがわかります。枝の部分は一方付、笹の葉は反転している・・・
勘の良い方はもうお分かりかと思います。
実はこの商品、薄い部分(枝)は緯絣のみで表現されているのです。

笹の絵絣

枝の部分だけ緯絣の色が少し変えてあります。拡大してみても目立ちませんが、離れてみるとはっきり枝となって表現されるのです。緯絣であれば続く柄を上下反転させることなく一方付の模様が作ることができます。
経緯絣模様の中にうまく緯絣の模様をかぶせる。大きなコストをかけずに柄の自由度を広げることができる画期的なアイデアです。

以上、大島紬の柄がどのようにパターン化されているかを見てきました。複雑に見える柄でも基本的には一つの柄の繰り返しなのです。繰り返しパターンによって絣造りの手間がわかり、商品の付加価値がわかります。そしていかに繰り返しを分からないようにするか、よく観察することで様々なアイデアを垣間見ることができます。

大島紬を選ぶ際はデザインの繰り返しパターンに着目してみてはいかがでしょうか。

繰り返し柄を黒く潰しこむことで訪問着としたアイデア作品。柄の一部を残すところもニクい演出である。

 

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