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問屋の仕事場から

2017.09.25
大島紬の試織 生糸以外で織ってみる

特殊な大島紬

大島紬は紬と名のりながら紬糸を使わず、甘撚りの生糸を使います。生糸由来のつるっとした手触り、光沢は他の紬にはない特徴で、さらに染、織に工夫を凝らした多彩なバリエーション展開で今の不動のポジションを確立しました。しかしそれらはすべて生糸を使ったものです。廣田紬では糸の種類を変えることで大島紬の新しい可能性を模索しています。

今回紹介するのは2種類の商品、まず写真手前の大島紬、庭を背景に透かしてみました。

庭をバックに透ける大島紬の生地

夏大島のように背景がよく透けて見えますが、よく見ると黒い個所が透けきっていないことがわかります。太陽光が直接当たっている蹲のあたりが顕著で縦長の黒い長方形が浮いてきています。

この大島紬、通常の生糸と強く撚りをかけた糸(駒撚糸)を組み合わせて織ったものです。組織を拡大してみてみます。

生地を分解して解説

一定の間隔で、生糸と駒撚糸を組み合わせています。駒撚糸と駒撚糸を組み合わせたところは糸と糸に間隔が置いており、そこが透けて見えます。しかし生糸と生糸が組み合わさる個所は隙間がなく、黒く透けない部分がこの個所だったのです。

表情のある生地

手触りは通常の大島紬に極めて近い。

この商品、大島紬で夏大島の透け感を演出するために試し織りをしたものです。手触りとしては夏大島のような強いシャリ感はあまり感じられず、大島紬独自のしっとりとした風合いです。この商品は薄物を着る程の時期ではないが、できるだけ涼感を演出したいという需要を想定しています。また、大島紬でありながら透け感があるというのは希少でお洒落なものです。

 

続いて奥の小格子の商品、写真だけでは普通の大島紬とどう違うか一見してはわかりません。

紬糸で織った大島紬

よくみると小格子を構成する白い横段、緯糸部分の太さが各々異なっているのがわかりますでしょうか。さらに経糸と緯糸の太さも明確に違います。実はこの大島紬、緯糸に紬糸を使っているのです。糸の太さが不均一な紬糸を使うことで味のある小格子を作り出しています。

紬糸を使うことで生地の厚みが増し、しっかりとした地風になります。単衣にしたときには肌にまとわりつきにくい独自の風合いを得ることができ、繊細な大島紬の弱点でもある擦り切れやすさも解消しています。

生地の拡大

生地を拡大。目立たないが節糸を含む紬糸であることがわかる。

大島紬はもともと紬糸で織られていましたが、大正時代を境に生糸を使うようになりました。需要に応じた生糸が安定的に供給されるようになり、精緻な絣を作るには生糸の均一な細さが適していたからです。

確かに精緻な絣柄には生糸のほうが適していると思います。しかし一度生糸を使うようになってからは生糸一辺倒になってしまい、単純な縞格子柄も生糸で織られているのが現状です。少なくとも紬と名のっているのですから紬糸の良さも活かしてほしいものです。

丈夫さが特徴の紬糸を使うと大島紬とは言えないと思われるかもしれません。元々は紬糸を使っていたのですから、こちらが本来の大島「紬」といえるでしょう。

紹介の商品2点

紬糸を使いながらも組合の検査をパス、伝統マークもしっかりと張り付けられる。

糸の種類に着目した大島紬、廣田紬では全国各地の紬を扱うことから、産地だけでは成しえない発想のものづくりをしています。そしてお客様のニーズを集め、より良いものづくりに反映していきます。貴重なご意見、遠慮なくお問い合わせページよりお寄せください。

 

※生糸と記載がありますが、本来の生糸が意味するところは精練前の生の糸(Lowsilk)のことです。しかし節を有する様々な糸に対して、機械繰糸した平滑な糸が生糸(正確には本練絹糸)と呼称されています。

 

紬糸の黒い大島紬

こちらは緯糸に紬糸を使った泥染め無地の大島紬。熟達の手織りが伝わる逸品である。

紬糸を使った大島紬 節が出る

こちらは絣糸の残糸を使った商品であるが、紬糸を織り込むことで味を出している。

 

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