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問屋の仕事場から

2018.01.22
反物のスリップ(引け)に注意

割けそうな着物生地

紬は大変丈夫な織物ですが、写真の結城紬(単衣仕立て)のように背縫い目を中心に糸が引っ張られ、負荷が長い間かかり続け糸が切れてしまうことがあります。そうならないように居敷当(いしきあて)による補強が必要です。そして長年着用しているわけではない着物の生地が急にスリップして隙間が空いてしまうことがあります。

 

スリップとは「糸引け」ともいい、繊維自体は切断されずに糸が引っ張られ形状が崩れてしまう(生地が歪に寄る)ことを言います。織物は経糸と緯糸がガッチリ組み合わさり組織を形成しているので、普段生活している動作くらいでは問題のない強度を有しています。しかし体型に応じない余裕のない着付や、急にしゃがんだり座ったりといった動作は臀部を中心とした生地に強いテンションが加わりスリップ(糸引け)してしまうのです。

 

「着物を着用する際には挙動に十分に気を付けてください」と言ってしまえばそれまでですが、実は織物の特性にも原因があります。

 

まず注意が必要なのが綾織の商品です。

こちらは草木染の凝った綾織の商品ですが、端切れを緯糸方向に強く引っ張ってみます。

スリップした生地

4本の経糸(黒糸)がばらけてしまっている。

すると糸がずれてしまい、組織の形状が崩れてしまいました。一度崩れてしまうと元に戻すのは困難です。美しい光沢やしなやかさが魅力の綾織ですが、糸を浮かせて織るので組織同士の結束度合が平織に劣ります。

結城紬や大島紬をはじめとする多くの伝統工芸織物は平織で織られています。野良着をルーツとする紬は丈夫さが第一、強度の観点からすると経糸と緯糸が一本づつ交差するシンプルな平織がベストです。

背景が透けて見える薄い大島紬。

平織であれば大丈夫かといえばそうでもありません。例えば大島紬、こちらは生糸の平織でガッチリ経緯糸が組み合わさって作られています。しかしその大島紬の中にも経糸の本数を減らして織られた商品が存在します。経糸の本数を減らすことでコストダウンを行っているのですが、スリップしやすいというデメリットも抱えています。

13算(ヨミ)と呼ばれる商品は経糸の数が1040本(経糸80本×13)です。15.5算(1240本)の商品と反物の幅は変わりませんので、どうしても経糸と緯糸のバランスが悪くなってしまいます。

こちらも反物の端を緯糸方向に引っ張ってみます。

組織がゆがんだ生地

テストに使った部分はあえて経緯のバランスが悪いところ(緯糸を使い機屋名を織り込んだ箇所)を使用。

すると糸が動いてしまい、隙間が見えるほどになってしまいました。糸が寄ってしまい、組織が歪んでしまっているのがよくわかります。経糸の本数が少ないとどうしても目が粗くなってしまい、糸が引けやすいのです。であれば15.5算の商品であれば問題ないかというと、そうでもなく織子さんの打ち込みの技術によってやはりスリップしやすい商品もあるのです。

そして13算の大島紬に限らず、他の紬の平織でも緯糸の打ち込みが甘かったり、経緯のバランスが崩れているとスリップしやすい傾向にあります。怪しいと思った織物は少し端のほうを張ってみてください。糸が動きそうな商品は要注意です。各産地組合では反物が簡単にスリップしてしまうことのないよう一定の検査基準が設けられていますが、最後に頼りになるのは自分の手の感覚です。様々な織物を長年扱っていると検反の際になんとなく織り具合の良し悪しがわかるようになります。

 

結城紬の不合格の証紙

組合の検査で不合格になった結城紬、緯糸の打ち込み不足が原因。

以上、スリップしやすいかは織物の特性によって大きく変わってくることを解説しました。着用の際にはその織物がどの様な構成(糸質、組織、織り方等)なのかを考えることで、少しいたわり方も変わるのではないでしょうか。

 

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