産地から納品された反物は不具合がないか、念入りに検反を行いま…
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問屋の仕事場から
- 2017.06.29
- 織物の伝統マークの有無について
先日、販売店様に商品をいくつか紹介した際に、ある質問をされました。
それは同じブランドの織物でも伝統マーク証紙が貼ってあるものと、貼っていないものがあるけども、これはどういう違いなのか、ということでした。
その際には後述する③の理由をご説明して納得いただきましたが、今回は伝統マークの有無をテーマにしたいと思います。
反物の織り口には様々な事柄が表記された紙が貼り付けられています。品物名、原材料名、反物のサイズ、作家の紹介等々、、、
この中でも伝統マークの金色シールは伝統証紙といい、伝統的手法で作られた品物であることが一目で認識できるものです。産地組合等の名称が明記されており、個別の管理番号から生産者まで遡りトレーサビリティをとることができる役割もあります。
※産地によって番号が付与されていないものもあります。
伝産法により決められた通産大臣のお墨付きだけあって、消費者にとっては商品の真贋を含めた一定の安心材料としてもらうことができます。織物については現時点で37品目が指定されています。
しかし様々な事情から証紙が貼られていな品物もたくさん存在します。これはどういうことか分類してみました。
① 伝統証紙をわざわざ貼り付けるメリットがないと判断されたもの
例えば本場結城紬にはこの証紙は貼られていません。重要無形文化財の技法で作られた越後上布/小千谷縮も同様です。伝統証紙は「昔ながらの方法で手間暇がかかった製品です」というレッテルでもあります。本場結城紬はそのブランド力の高さ、信頼性からそのようなレッテルは不要です。その代わりに検査組合の検査証などが貼り付けられています。さらに流通経路が限定されており、トレーサビリティもしっかりと確立されています。
置賜紬においても条件を満たすのに伝統マークを貼らない商品があります。レッテルを貼ることにこだわらず、ありのままの魅力だけで勝負するという方針のものです。置賜紬の場合、糸が本当に植物染料で染められたかどうかの成分検査があったりとかなり徹底しています。証紙が付与されるのに無視できないコストがかかりますのでそれを回避しているという側面もあるようです。
② 指定の伝統的技法に則して製造されていないもの
伝統証紙を貼り付けるにはいくつか条件があります。ザックリと説明すると指定された産地で決められた伝統的(100年以上)に使われてきた素材、技法で主要部分を手作りする必要があるということです。これを裏返すと極端ですが次のようになります。
「国内外を問わず、最新の素材、技術を使い全自動機械で織られたもの」
それは現在の衣類製造の現場では当たり前のことですが、その条件が一つでもあればNG、証紙を貼ることができません。故に伝統工芸織物では製造コストを下げるのは困難です。単純な柄(縞格子)については自動織機で織ることが可能になっています。低価格で流通しているものは、現代の効率化された手法で作られたものと考えるのが自然でしょう。
また伝統的工法で作られていても、それぞれの指定要件を完全に満たしていないと原則的にシールを貼り付けることはできません。例えば手織の小千谷縮でもヨコ絣糸を使っていない柄だと伝統マークは付与されないのです。
すべてが杓子定規に適応されているかというと、管理する産地組合(担当者)によって曖昧なところもあるようです。公金が注ぎ込まれていますので好ましいことではありませんが、あまり目くじらを立てるのも無粋な気がします。
③ 組合を経由しない商品
伝統証紙は原則として各産地組合経由の商品に貼られるものです。組合との関係や織元の方針で組合を経由しない場合、証紙なしの商品が流通することになります。個人工房、作家の場合はこのケースが多いです。本人の名前が売れてくると、レッテルである証紙をわざわざ費用をかけて取得する必要はなくなるのでしょう。こうなってくると伝統的工芸織物の条件の縛りから解放されて、糸の素材を変更するとか、染色材料に化学染料を使えるだとか、自由に物づくりができるようになります。
以上の通り大きく3つの理由に分類してみましたが、今後反物を見る際には伝統マークが貼り付けられているかどうか、その商品がどのような背景で作られたものか考える材料としていただければ幸いです。