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問屋の仕事場から

2017.08.22
手織りが希少になりつつある牛首紬 

牛首紬の反物

牛首紬は結城紬、大島紬と共に日本三大紬の一つに数えられたり、釘抜き紬の異名があったりとその生産反数の割に知名度が髙い人気の織物です。その歴史や製造工程は組合のHPで大変詳しく紹介してあり、今後も積極的に活動してゆくという前向きな姿勢が見て取れます。

牛首紬は数年前まですべて手織りでしたffが、現在ではほとんどが動力を使った織機(力織機)による生産となっています。その経緯を踏まえながら牛首紬について考察してみます。

雪山と水田

霊峰白山(2702m)、雪に閉ざされたふもとの村々では機織りが行われていた。

牛首紬は福井県、白山を望む山麓で作られる紬で、江戸時代はそれらの総称が「白山紬」として認知されていました。しかし戦後に私企業が自動織機で織った白生地を「白山紬」として商標登録してしまったため、産地として残っていた牛首村(廃村:現白山市)から名前がとられています。

牛首紬のほとんどは白山工房(西山産業開発株式会社)でつくられていて、コンクリート砕石や土木事業を中心とする株式会社西山産業の繊維部門です。本業は桁違いの事業規模ですが、伝統的工芸品を一部門として扱うのは高尚なことで、地域の伝統産業を残していきたいという強い信念をうかがい知ることができます。

先染め織物の牛首紬は角印と呼ばれるトレードマークで知られています。

印の押された生地

白山工房製の角印、反物の証紙に加え、生地自体にも角印が押印されている。

白山工房の製品は手織りと力織機を使ったものに分かれます。当初はすべて手織りでしたが、平成25年から力織機を使った生産が始まり、今では手織りの品を一部を残してほとんどが力織機によるものです。それは力織機の導入することで牛首紬を産業として末永く継続させたいという強い意志があったからです。

牛首紬の本質は「座繰りによる玉糸」を使うことにあり、織工程は全体の20分の一に過ぎません。

手で紡がれる糸

座繰りで玉糸をとる。独特の匂い、熱湯から糸を引き出すのは大変な作業。

手機は打ち込みのタイミングや力加減が職り手によって異なり、熟練の技術を要することから品質が安定しにくいという課題がありました。この工程がボトルネックとなれば生産数量の確保ができません。しかし力織機を使うことで均一な強い打ち込みを安定的に得ることができます。また力織機といっても手作業の一部を動力に置き換えただけで、しっかりと引杼を使用(伝統的工芸品の条件)しています。そして生産効率が上がった分は検査工程に力を費やすことで製品全体の品質向上に還元させているのです。

縞柄の牛首紬の生地

絣柄はなく縞に特化、様々な縞割の商品が展開されている。

一方、どうしても手織りでしか製造できないものもあり、少数量が生産されています。力織機では織ることができないものが熟練の職人により織り進められます。織る人の感性が微妙な力具合の変化となって織りあがった商品はやはり目に見えない付加価値が有ります。せっかくですから手織りの品を求めたいものです。ほとんどが力織機に置き換わってしまったとなれば、なおさら希少価値があります。

縞の牛首紬の生地

多数の節が浮き上がる牛首紬、こちらは手機りの商品。

実は力織機と手織りの商品はどちらも経産大臣認定の伝統的工芸品としての定義は満たしており、両方ともに伝統マークが張り付けてあります。基本的に無地や簡単な縞は力織機で織られたものですが、どのようにして手織りと力織機の商品を見分ければよいのでしょうか。それは反物に張り付けてある証紙を確認すればわかります。手機で織られた商品の保証書には「石川県無形文化財技術により製造された手織り」記載があるのに対し、力織機の商品には記載がないのです。

白山工房の証紙

石川県無形文化財技術(指定技術として手織りが必須)で製造された旨の記載がある。

通常、織元としては力織機の使用を公言しないものです。それは織子さんが一反一反丁寧に織り上げているという消費者のイメージを損なうからです。しかし白山工房では力織機の導入をあえて宣言、メリットも含めしっかりと説明するという真面目な会社です。織物が産業として継続してゆくには、ある程度のまとまった数の生産数が必要です。力織機の導入は伝統織物を未来に残していくために先を見据えた決断でしょう。

伝統的技法にこだわるあまり、作る人が途絶えてしまっては意味がありません。モデルケースとして他の産地へも参考になるはずです。流通サイドとしては消費者がどのように判断するか興味深いところで、注意深く見守ってゆきたいと思います。

 

 

最後に、牛首紬のもう一つの織元である加藤機業場の紹介もしておきます。

こちらは御年96歳になられる加藤改石社長を中心とした工房です。加藤手織牛首紬と呼ばれる商品は昔ながらの製法を守り、すべて手織りで作られているため月に十数反程しかできません。そしてそのすべてが白生地で、高級染織物に生まれ変わります。白山工房の製品とは異なり緯糸に全て玉糸を使用し、風合が異なります。こちらはすべて手織りで白生地に特化することで差別化(すみ分け)がされています。

加藤機業場の証紙

加藤機業場製の保証書、白山工房が力織機を導入する前は連名で証紙が発行されていた。

 

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