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問屋の仕事場から
- 2018.09.10
- 弾力性に富んだ後染め改石牛首紬
結城紬、大島紬とともに三大紬にも数えられる牛首紬ですが、知名度の割にその生産規模は大きくありません。多くは先染めの白山工房製ですが、加藤機業場では後染め加工に使われる白生地が作られています。
牛首紬の特徴は玉繭からとれる玉糸を使うことにあります。玉繭は2頭のカイコ(雌雄であることが多い)が一つの繭を作ってしまったもので、その形成過程で糸が複雑に絡み合ってしまいます。
加藤機業場ではこの玉繭をお隣の福井から特別に調達、通常は機械で糸を繰り出すのですが、「のべびき」と呼ばれる昔ながらの手法を使い糸づくりをしています。一筋の玉糸は60個前後の玉繭(120本の糸の集合)から引き出され、作業者は80度以上の熱湯にある繭の中から経験とカンを頼りにして糸を引き出していきます(驚くべきことに素手で)。糸が複雑に絡み合い作られた玉繭からとれる糸は太く縮れたくさんの節を含んだ玉糸になるのです。そしてこの玉糸を糸叩きでほぐし、こわばった繊維どうしを馴染ませます。
こうして手仕事で作られた糸は嵩高く伸縮性に富む玉糸になるのです。
玉糸を緯糸に100%使用しています。そしてすべてが熟達の織子さんによる手織りです。バッタン式と呼ばれる高機でリズムよく織られます。玉糸自体が太く丈夫なこともありますが、強く打ちこむことで織り密度が増し更に丈夫な布になります。
結城紬のようなフワッとした風合いでありませんが、表情が豊かであるという点においては負けていません。実際に反物をもってみると重量があり、特有の心地の良い弾力性が伝わってきます。ポリウレタンを極々微量に混紡したようなイメージでしょうか。その独自の風合いは紬たるものとりあえず軽ければ軽いほど良いという風潮に疑問を覚えるほどです。成り立ちが野良着であるはずの紬は丈夫であることが第一条件、その点で結城紬や大島紬は本来の存在意義を失っているといえるでしょう。
加藤機業場は白生地の生産に特化しています。それらは刺繍や友禅が施され訪問着などの華やかなフォーマル後染め着物に生まれ変わりますが、是非先染めのカジュアル着物にも使いたいものです。
釘抜紬の異名を持つほどの耐久性がある牛首紬ですから、普段使いにこそ適しています。白生地ですからシケ引きなどで無地の普段着を作ることも可能で、わざわざ後染めしてまで使いたいというニーズもがあるほどです。節の多い白生地を後染めするとなると節の染料溜まりが目立ったり、織の特性によってムラになりやすいにもかかわらずです。
加藤改石氏の加藤機業場で生み出される牛首紬は改石牛首と呼ばれ、白山工房の「角」印に対して「石」の印がおされています。昔ながらの手法で作られる改石牛首は生産数がどうしても限られてしまいます。まさに質実剛健といえる改石牛首、フォーマル一辺倒ではなく普段使いの着物としてこそおすすめしたい逸品です。