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問屋の仕事場から

2018.06.14
絹織物の鮮度のこと 〜生地の劣化に注意〜

沢山の反物

伝統的工芸品は消費期限のある生鮮食品や陳腐化する電気製品とは違い、生涯にわたって生活に寄り添ってくれるものです。まさに一生ものと言え、使うほどに愛着が増していくのもまた魅力の一つです。

金属や無機物で作られたものは朽ちることはありません。名器と呼ばれる陶磁器や花器などは数百年の時を超えてそれを扱うのに相応しい様々な人の手にわたります。オーナーはそれを所有するという感覚よりは、悠久に受け継がれていく品物の一部の時間を借り受けるという感覚でその対価を払うのです。

 

一方、有機物である織物に関しては時間の経過とともに組織が少しづつ分解していきます。特に絹は経年によるダメージを受けやすく、古裂などは触っただけで崩れてしまうものがあります。

風化する絹織物

写真は正倉院に収められている絹織物です。刺繍部分は残っていますが、地は組織が崩壊してしまい、原型をとどめておくのがやっとの状態です。同じ年代のものでも麻のものですとこちらは原型をとどめており、絹に比べ劣化しにくい素材であることがわかります。

絹糸単体ですと50年経つと元の強度の60%、100年で30%程になってしまいます。200年、300年と時が流れると糸として使いものにはなりません。実際は糸を撚り、織物にしているので強度はもう少し保たれているかもしれませんが劣化した生地はすぐに裂けてしまいます。

結城紬時代寄裂着物、縞柄が基本であった江戸時代のもの。

写真は江戸時代の結城紬のハギレを集めて着物に仕立てたものです。資料的価値のある貴重なものですが200年以上の歳月が過ぎています。見た目は原型をとどめていますが、生地をよく見てみると劣化が進んでおりピリッと裂けそうな状態です。いくら結城紬が丈夫といっても着物として使える状態ではありません。

破れた結城紬

一見、問題なさそうな部分が多いのですが生地によってはほつれたり、破れが出てきています。使用によるスレなどをふせぎ、大切に保存されてきても経年劣化には抗えないのが絹という繊維なのです。

 

リサイクル着物は作られた時代に注意

そのリーズナブルさで人気のリサイクル着物やアンティーク着物、古着といってもしつけ糸がついていたり、一度も袖を通していない商品もあります。新品で買うことを考えると大変なお買い得ということができます。洋服の古着には抵抗があっても、着物となると別扱いになる人もいるのはそれほどまでに魅力的な価格だからでしょう。


 

リサイクル着物の多くは着物全盛期(昭和40年代)に大量に供給された商品です。特に必要がなくても結婚の際にとりあえず一式そろえていた時代です。フォーマル着物はもちろん、お洒落着物も全盛期で本場結城紬は年に3万反、大島紬に至っては100万反(縞大島含)もの量が生産されていました。平成に入ると一気に生産量が下がったため、在庫の絶対数でいうと昭和40~50年代の商品が圧倒的に多いのです。

過去の結城紬の証紙

半世紀以上前に織られた結城紬。張られている証紙が現在では流通していない古いタイプのもの。

さて、それら半世紀ほど前に作られた着物は外見はダメージがなくきれいに見えても、生地が劣化している懸念があります。紫外線や温度湿度の変化により様々なダメージを受けますし、絹自体の経年劣化が進んでいます。生地を触ってみて異常はないか、強度はしっかりしているか、しっかりと吟味する必要があります。そしてその着物がいつごろ作られた代物なのかを理解することで劣化の程度を知ることができます。場合によっては張られている証紙からつくられた年代をざっくりと推察することもできます。

昔の久米島紬の証紙

昔の久米島紬の証紙、昭和期に作られたことがわかる。

生地の劣化具合を知るには

証紙などで古さが分かるケースもありますが、生地の劣化具合は外から見ただけでは分からないこともあります。その場合は実際に生地強度を試してみることです。破れても差し支えない箇所(反物の織り口)を強く引っ張ってみてください。

ミシミシ・・と破れそうであれば要注意、強い張力がかかれば一気に裂けてしまうことでしょう。別布で裏打ちなどすれば使えるかもしれませんが、普段に着るものとしての強度は残っていません。

綿や絹は経年による劣化がが必ずある。

着物は一生ものといいますが、普段着るものとしての耐久性を求めるのであれば、丈夫に越したことはありません。絹には鮮度があり年月が経てば劣化していくことを知っていれば、リサイクル、アンティーク着物の価格妥当性の判断の手助けになることでしょう。

 

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