夏塩沢は塩沢産地で生産される夏向けの絹織物です。当地では塩沢…
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問屋の仕事場から
- 2018.05.21
- 夏の普段着に絹を着る贅沢
全国各地の様々な紬織物、それぞれの夏バージョンが存在しています。夏大島、夏結城、夏牛首、夏塩沢等々、、、
夏の普段着には麻を着てくださいと言いたくなるのですが、それでも絹ものが好き!という方のために様々な選択肢が用意されています。
伝統的な紬を作っていた各産地ですが、従来の真綿の紬は夏には出番がありません。そこで更なるマーケット拡大のため夏向けの織物を作ることになりました。密度を粗くして透け感を演出したものや、細い生糸と紬糸を混織し薄く織り上げたもの、強撚糸を使うことでシャリ感をもたせた織物を作り出したのです。
これらの夏織物は伝産法による伝統的工芸品の指定(100年以上の歴史が必要)を受けたものはなく、比較的近年の織物になります。各産地ごとの特徴を受け継いだ夏向けの織物が完成しましたが、よく考えてみると少々疑問符がつく商品もあります。
例えば紬糸と麻糸の混織、フワッとした風合いをもつ紬糸にシャリ感をもった麻糸をかけ合わせると・・・柔らかでサラリとした両者の良いとこ取りの風合いになるそうです。
真綿の紬糸を夏物に使うのはナンセンス、涼感を得られるものではありません。すくなくとも単衣の時期向きであることを意識させるネーミングにするべきでしょう。他にも産地紬の名前に「夏」をとって付けたような素性がハッキリとしない「夏何とか織、紬」をしばしば見かけます。これらは実際にふれてみて風合いを見極めることが大切です。
そして夏はどれだけ気を使っていても生地が汗を吸います。一度着た着物を洗わずに使うわけにはいきませんのでメンテナンスの時間、費用がどうしても掛かってしまいます。お気に入りを毎回クリーニングに出さなければいけない、普段着として使うことは贅沢なものです。
使い勝手からすると夏に絹素材の着物は疑問符がつくのですが、たくさんの夏向けの絹織物が存在し続けているのは消費者の絹を着たいというニーズがあり、支持を得つづけているからです。
夏場に麻や綿だけでは面白くないということで、ちょっとした特別感を楽しむことができるのが正絹の着物です。少しでも涼しく快適にと工夫がされた絹の夏着物、お気に入りの一着が必ず見つかるはずです。
使われている糸がどのような種類か、手で触れてみてその風合いは本当に夏に使うのに適しているか、メンテナンス性はどうかよく見極める必要があります。「夏」のネーミングだけで惑わされることのないように実際にしっかりと風合いを確かめてみてください。