手おりの里・金剛苑は秦荘紬や近江上布を制作する工房に加え、美…
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問屋の仕事場から
- 2018.05.25
- 反物のハギレを使った加工品
通常着尺の反物の長さは3丈3尺(約12.5m)前後あり、着物を仕立てた後にはよほど長身の人でない限り生地が余ります。この半端な布切れをハギレ(端切れ)といいますが、そのまま捨ててしまうのは大変もったいないことです。今回はハギレを使った素敵なアイテムに焦点を当ててみます。
各産地でも製造の際に発生した不適合品などを利用して様々な商品に展開されてきました。財布、名刺入れ、ブックカバーなどが定番です。ベースになる皮革製品などに生地を張り付けるだけですから簡単に加工することができます。
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大島紬(龍郷柄)を使った名刺入れ、汎用部材に生地を張り付けるだけで簡単に作ることができる。
これらの小物は常に携帯しておくことができますので、大好きな織物を着物を着ないシーンでも楽しむことができます。財布や小物入れレベルでしたら少しのハギレから作ることができますので、着物を仕立てる際に余った部位で着物とお揃いのアイテムを揃えることも可能です。例えば草履の鼻緒が着物とお揃いであればとても粋なものです。
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久留米絣の帚カバー、民藝調の箒にマッチする。
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八重山上布の衿裏、高級品を裏物に使う粋。
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八丈織のティッシュカバー、何とも贅沢なものである。
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丹波布を使ったクマのぬいぐるみ @丹波布伝承館
ハギレで帽子やバッグなども作ることができますが、大きなものになると副産物のハギレでは足りず、それ専用に生地を用意しなければなりません。
従来は不適合品(B反)などを利用して作られていましたが、最年では着物用で織ることを前提とせずに、そういった小物専用に生地を作るところもあるほどです。新人の織子さんの練習用や、古く劣化してしまい着物としての強度を満たさない生地を使うのにうってつけです。
昨今のインバウンド需要からハギレを使った和装小物はにわかに活況を呈しています。
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しな布の利休バッグ、帯と同じ素材から作られる。
着物用の生地は厳しい検査項目をクリアする必要がありますが、これら小物の生地用途ですと見習いの織り手でも手がけることができます。縮小する着物マーケットをよそ目にこれらの和装小物は躍進しており、意外な形での産地の救い手となるかもしれません。
ハギレをたくさんあつめると
反物は長いものでは13m以上あることがあります。反物が長ければラッキー、10センチ織り進めるのに何時間とかかった織物が手元に残ります。また、背が高くなければ要尺も少なくて済みますので、ハギレの長さは長くなります。男性物やコート向けでしたら「おはしょり」が不要ですのでこちらも大きなハギレをとることができます。
これらのハギレを集めて繋ぎ合わせることで、様々な物を作ることが可能です。
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古民家にある紬の衝立 @手織の里 金剛苑
当然、着物を作ることも可能でアンティーク着物として古着屋さんなどで売られています。これらは古くなって着ることが出来なくなった着物を裁断して組み合わせるケースが多いようです。異なる産地の織物、様々な柄を組み合わせたアンティーク着物はなかなか斬新なデザインとなり、見る者を楽しませてくれます。
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結城紬のハギレで仕立てた着物
いざ着物を作るとなる大変な量が必要となり、布屋さんなどで買い集めないと現実的ではありません。そこでおすすめなのが子供用の甚平です。半身で作ることで要尺も短くて済みますし、斬新なデザインとなります。
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近江ちぢみの幼児用甚平
人の手仕事が伝わる上質の生地からはやはり良いものができます。市販の既製品とは一線を隔す手作りの味を放つのも伝統工芸織物ならではです。タンスにしまってある不要な着物を子供用に仕立て直す楽しみ、直接的に業界は潤わないかもしれませんが、着せて歩かせておくだけで伝統工芸織物の素晴らしい広告塔となってくれることでしょう。
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予めシボ(しわ)加工されているので動き回っても自然な雰囲気。
以上、ハギレを使った様々な加工品を紹介しました。
すばらしい伝統工芸織物ですが、高価な着物(着尺)は一般の人がなかなかおいそれと買うことができません。しかしハギレを使った加工品であれば求めやすい価格で購入することができます。その織物について魅力を知ってもらうきっかけになれば幸いですし、産地にとっては着物という形以外でのマーケットの醸成はとても重要なことです。
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襖の引手のところに紬のハギレを当ててみる。
ハギレを使うことは昔はどの家庭でも行われていた文化でした。布を大切にし、最後まで余すことなく利用する心がいつしか失われてしまったのはとても残念なことです。不用品が素敵なアイテムに変身する伝統工芸織物のハギレ加工、是非チャレンジしてみてください。
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汎用部材を使うことなく、とても丁寧に作られた諸紬の名刺入れ、粋な利休鼠。