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- ブログ -
問屋の仕事場から

2021.01.11
幻の土布 〜手紡綿糸のぬくもり〜

文明のあるところ、どこでも当たり前のように作られていた手仕事の綿布、それらは機械の発達により姿を消してしまいました。

土布(どふ)とは中国の農村で作られていた手紡、手織りの布のことです。中国においても独自の綿織物の文化がありましたが、安価なインド綿の流入、機械化に伴う大量生産化、文革による影響などでそのほとんどが失われてしまいました。

しかし広大な大陸においては機械化が行き届かないところもあり、中国の奥地では人の手で綿織物が作り続けられていたのです。

今回紹介の土布、糸から人の手で紡ぎ出された全てが手仕事の布です。土糸と呼ばれる手紡ぎの綿糸、均等な細さになる機械紡績糸とは違う太細の混ざった糸になります。

組織を拡大してみると一目瞭然で、太い糸と細い糸の差に驚かれると思います。

手紡糸を100%使った土布は、糸の細さが経緯で全て異なる。

単純に生産することだけを考えると、緯糸に太い糸を集中させた方が楽(杼を打ち込む回数が減る)ですが、緯糸方向に細い糸が多いのにも驚かされます。

紡錘車(スピンドル)を回して作る土糸は作る人によっても、綿花の生産時期によっても質が異なります。綿花の綿クズ織り込まれていたり、製織もそれなりに雑で段が生じていたりとても粗野なものです。工芸品たる日本の布(例えば同じ手紡綿を使う丹波布)とは洗練度が全く異なる代物です。

綿花の屑が繊維に残り織り込まれている。

しかし荒々しく粗野なものではありますが、今や作ることのできない貴重な存在であることは確かです。粗野というデメリットが現代においては「味」という付加価値になっているのです。

工芸品のような美しさはないが、手の温もりがある愛らしい布。

一本一本の太さが異なり織り密度も違う土布は、機械で作られた薄っぺらい綿布とは迫力がまるで違います。人の手仕事の温かみ(機能的な面でも地厚でふわっとしていて暖かい)が感じられる愛すべき生地であることが伝わる生地風です。

太い糸も混在しているのでどうしても地厚な生地となる。

この生地は白生地なので自由に染め加工が可能です。

あるお客様がこの生地を使って藍染をされたのですが、それはそれは素晴らしい布に仕上がってきました。

暖簾や座布団などに向く生地ですが、服地として使うとなるとどのような服に仕上がるか、考えるだけでも楽しい素材です。

幅も和装の小幅より広く用途が広がる。個体によっては45㎝程度ある。

手紡糸を使った土布は現在は作られておらず、これらは1980〜90年代に作られた貴重なデットストック品です。今や発展途上国とはいえない中国においては奥地の近代化も進み、このようなコストのかかる生地を作ることは叶わなくなっています。

幻の土布、ビンテージ品だからといって高額な設定はしておりません。用途は様々ですが、その愛らしい生地に触れた瞬間、用途を定めずとりあえず手元に置いておきたくなることでしょう。

 

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