織物づくりの仕上げとして砧打ちとよばれる工程があります。織り…
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問屋の仕事場から
- 2020.03.02
- 藤布 ~慎ましき自然布~
藤の蔓を細く剥いで糸を作り織り上げた藤布、和装の世界においてはシナ布や葛布と同じく帯として生き残っています。
藤ほど日本人に親しんだ植物はないかもしれません。佐藤、斎藤、加藤、伊藤、藤井、藤原・・・苗字も藤だらけ。
藤色といえば、優しさと明るさを兼ね備えたポジティブなイメージカラーです。
しかし現代の日本人でその蔓をイメージする人はほとんどいないでしょう。その強靭な蔓を編むことで魚網や籠、繊維を糸にすることで布が作られ日本人の衣服に使われてきました。
麻や綿が一般化する前は日本人にとって一番身近な繊維製品だったと言っても過言ではありません。太古の昔から人に寄り添ってきた繊維なのですが「たったの」ここ100年で人々の記憶から忘れ去られようとしています。
日本各地で藤布が作られてきた記録がありますが、現在では主に京都の丹後地方で作られています。
藤布、藤織りの詳細についてはフリー百科事典のWikipediaに大変詳しく学術的に記載されていますので、時間のある方はじっくりと読まれることをお勧めいたします。
和装向きに自然布が使われる場合、そのざっくりとした素材感、粗い透け感のある織り組織から、夏帯に使われることが主です。藤布も御多分に漏れず夏帯、今回紹介のアイテムも端をかがることのない八寸夏帯としての展開です。
経糸、緯糸ともに藤糸を使ったものです。とても硬質感のある仕上がりとなっていて、藤の繊維の丈夫さが伝わってきます。表面をクローズU Pしてみるとその原始布ぶりが分かります。何年も使い続ければ馴染んで実に柔らかく、親しみ深い生地になってくれます。
藤糸は樹皮の皮を剥いだものから作られています。まさに鎖帷子のような生地表面からはその丈夫さが伝わってくるのではないでしょうか。化学繊維とは違い紫外線劣化にもつよく、その耐久性は何十年も作業着として使っても破れないものです。
組織を拡大してみます。
撚りのかかった太細がまちまちの糸が、一本一本交差する平織物です。まさに自然布といえるもので、昨今の紡績された天然繊維とは一線を画すプリミティブさをもっています。
同じ自然布のシナ布と比較して寒色系なイメージです。そのくすんだ色は「地味」の一言で表しても間違いではないでしょう。
この「色気」のなさ、芭蕉布や葛布の煌めきを「陽」とすれば、藤布は「陰」ともいえます。ただでさえ「渋い」自然布の中でも控えめな藤布、その静かな地風がまた魅力的でもあります。
さらに藤布は使い込むうちに柔らかくなり、これが樹皮の皮を剥いで作ったものかと驚くほど柔軟な生地となります。
こちらは藤布の座布団、
型染めが施されていて現在ではこのような贅沢な商品はつくることはできません。半世紀以上使われていることもあって実に良くくたびれています。その柔らかさは先の帯とは全く別物で、硬質感は一切ありません。
先の帯も砧打ちなどすればある程度柔らさを持たせることは可能かもしれませんが、やはり経年のなせる業なのでしょう。
使えば使うほど馴染み、魅力的になっていく藤布、生涯にわたって人に寄り添ってくれる自然布の良さを改めて感じさせてくれました。