紙布とは和紙を千鳥状の短冊にし、撚りをかけ緯糸として織った布…
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問屋の仕事場から
- 2017.08.05
- 諸紙布の柿渋染(染工程編)
前回の商品紹介編ではすべてが紙でできた諸紙布の帯を紹介しました。
今回は紙糸が実際にどのように柿渋に染められてゆくかをみながら、柿渋染の魅力を紹介します。
柿渋は未熟な柿の実を砕いて発酵、熟成させたものです。古来から様々な用途に使われてきた日本固有の材料です。また、柿渋は他の染色材料とは仕組みが異なり染料と顔料の特性を併せ持つ素材です。各種堅牢度に優れ、色落ちに強いのは顔料ゆえです。
実は柿渋染はもともと染色目的ではなく、糸の強度の確保が第一の目的でした。いくら強度のある和紙でも紙の糸だけで機織しようとすると、どうしても無理なテンションがかかり、糸が切れてしまいます。
しかし糸全体を柿渋でコーティングすることで、織物にも耐える何倍もの強度を得ることができるのです。化学繊維が普及する前は、釣り糸(綿糸)や漁網の強度を上げる為に柿渋染を施していたほどで、柿渋を使うことによる耐久力向上は古来からの知恵でした。
織物にも使うことができるようになった紙糸は帯だけではなく着尺地への展開に可能になっています。柿渋をコーティングした繊維は少し「ごわつき」を持ちますが、使っているうちに実に馴染んで風合いがよくなるのです。
柿渋は顔料の性格を持っていますが、一度染めた後にさらに媒染が可能です。媒染材としてはアルミや銅、スズなどの金属を使いますが、今回は鉄をつかった媒染の様子を紹介します。
柿渋染が行われている工房(新潟県小国町)に湧きだす地下水には大量のミネラル(鉄分)が含まれており、この地下水を使って鉄媒染が行われています。視覚的にわかりやすい実験画像がありますので見ていきます。
鉄分を豊富に含んだ地下水(左)と通常の水(右)に柿渋液をほんの少し垂らしてみます。
ほんの少し柿渋液をいれただけで、明確に色が分かれました。普通の水がほんのり褐色に変化するのに対して、鉄分を豊富に含む地下水に対しては劇的な変化です。いかにこの地方の水にミネラル(鉄分)が豊富かわかります。ちなみに付近の道路は舗装が鉄分の錆びで真っ赤になるほどです。
次に一度柿渋に染めた紙糸をこの独特の地下水に漬けこんでいき、前後を比較してみます。
始めは薄茶色でしたが、漬け込んでから数分後、泥茶色に見事に変色しました。染具合を調整することで様々な濃淡を出すことができます。
染め終わった糸は「糸かせ」のまま天日に乾燥させます。日照時間が確保できる春から秋の間の数か月間、太陽の恵みを受けて柿渋染は完成するのです。このように柿渋染は一年をかけて丁寧に糸づくりが行われます。
今では紙糸だけではなく、現在では様々な糸で柿渋染をすることができるようになりました。他の染料とは根本的に異なる柿渋染、今後の商品展開が楽しみな素材です。廣田紬では今後も柿渋染を使った魅力的でユニークな商品を紹介してまいります。