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問屋の仕事場から

2017.08.05
流れるような透け感の明石縮(製造工程編)

明石縮の反物

前編では流れるような透け感の明石縮を紹介しました。どのようにしてその透け感を実現しているか、今回は製造工程からその秘密を見ていきます。

明石ちぢみは組織は緯糸と経糸が1本ずつ交互に織り重なっていく平織です。

筬に経糸を通して緯糸を杼(シャトル)を使って左右に織り込んでいきます。

筬に糸が通る

筬に経糸を通した状態、密度が高いため、筬が黒く写っている。

筬には1000本以上の細いスリットがあり、一本一本経糸を通し、段取りしていく作業だけでも気が遠くなりそうです。筬のスリットとスリットの間隔が狭すぎて写真では真っ黒に見えてしまうほどです。

この筬を使い織り上げると菱綾紋で透け感を演出しない通常の十日町明石縮となります。縞絣のみで表現される流れるような模様はとても美しいものです。

織られる着物

 

この経絣の美しいグラデーションは、染める際には実はいくつか工夫がなされています。

地糸を染め上げるには、防染を行うために綿糸で括(マスキング)って糸を染める、ヘラ等で必要個所に染料を擦り付ける方法があります。しかしその方法では流れるような明石縮のグラデーションは実現できません。

明石ちぢみの美しいグラデーションは浸透圧を利用して染め上げられています。糸の先端を染料に漬け込んだ際に、染料が糸を伝って漬け込んだ先以上に吸い込もうとする力です。

経糸の絣

各色に染め上げられた糸、機にセッティングする際にこれらを少しづつずらし更なるグラデーションを実現する

話が飛びましたが、透け感の秘密に迫ります。

波筬で織られる

 

こちらが透ける菱紋の明石縮を織っているところです。

通常とはいったい何が違うのでしょうか。筬の形状を拡大して迫ってみます。

織っているところ

筬の一部が波打つように変形しているのがわかります。筬自体の形状が異なり、これらは波筬、筬波と呼ばれるものです。この特殊形状の筬を使い、経糸と経糸の間隔を広げている間に緯糸を打ち込みます。筬の上下で間隔を見事にコントロールして緯糸を織り込んでいたのでした。

実はこの波筬、製造する職人がおらず、コストの関係もあり簡単に作ることができません。竹筬もそうですが様々な治工具が現代のオーパーツ化しています。ステンレスといえども道具には寿命がありますので、その「いつか」が来る日まで末永く動き続けてくれるのを祈るばかりです。

一世を風靡した十日町明石ちぢみも今となってはたった2軒の織元を残すだけになってしまいました。今回取材の織元では代々蓄積された図案を元に現代感覚あふれる図案を積極的に発信しています。

魅力あふれる明石縮、今後の商品展開を大いに期待します。

 

 

 

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