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問屋の仕事場から

2019.07.14
奄美で作られる泥染黒生地 

黒い布

大島紬には縞大島と呼ばれる自動織機で作られた廉価品があります。平滑な糸を使い織られた単純な平織ですのでデザイン以外にこれといった特徴はないのですが、奄美大島では泥染糸を使った白生地ならぬ無地の黒生地が作られています。

鹿児島産地で作られている大島紬の大半が自動機で織られた縞大島です。緯絣糸を使った「ヨコソ」もありますが、無地や縞、格子といった単純な柄が中心です。そして縞大島の白生地は様々な後染め着物の下地として使われています。

縞大島のオレンジ色の証紙、本場大島紬の伝統マークは付与されない。

友禅や絞り、金彩加工などがされたそれらは従来の素朴な先染め織物とは全くの別物に生まれ変わります。「この生地にはあの大島紬がつかわれています」という販売員の言葉からすれば、事情(縞大島は何の変哲もない平織物)に詳しくない人からすると大変な付加価値があるように思えますし、従来の大島紬ブランドを利用した好ましくないセールス文句といえます。

カラフルな沢山の反物がならぶ

鹿児島産地で作られるシンプルデザインの縞大島、白生地は染下として使われている。

一方の奄美大島においては、自動織機で織られた商品はその条件を満たさないことから大島紬とは認定されません。当然伝統マークの証紙は付与されず、代わりに奄美産地と記載された別の証紙が組合から発行されます。鹿児島においては縞大島が大島紬ブランドでまかり通っているのに比べれば理不尽な気はしますが、奄美産地においては手織りの絣織物であることを「奄美大島紬」としてしっかりと割り切りをしています。

そして冒頭の黒い生地は奄美において機械で織られた商品です。

従来の地球印とは異なる証紙が貼られ、従来の手織りの商品とは異なることが明確にわかるようになっています。

黒い生地にラベル

鹿児島産地の縞大島と製法は原則同じなのですが、特徴は糸に奄美大島独自の泥染がなされていることです。独自の泥染は島の車輪梅に含まれている黒褐色のタンニンと泥田の鉄が結合して作られます。人工的に合成されたアニリンブラックなどの単調な黒色とは異なる、深く味わい深い黒に染まります。

そして泥染を施すことで生地がしなやかになり、独自のトロッとした素晴らしい風合いを得ることができます。奄美の自然を利用した泥染の大島紬は平織でありながら綾織のようなしなやかさを得ることができるのです。糸についた糊を落としていない状態でも十分しなやかさが伝わってきますから、泥染の効果は抜群といえます。

そんな奄美でしかできない泥染を利用した無地の黒生地は希少な存在ですが、これを手織りで作成するとなると織りムラが目立つ上に大変なコストがかかります。シャレ物用途であれば少々の織り段などは味で許されますが、加工生地としては問題があります。喪服用途などフォーマルの場などでは織り段が許されないこともあり、打ち込みが安定する織機で作られているのです。

この黒生地、当然そのまま使うこともできますし、刺繍を施したり後加工に使ってもらうこともできます。

黒い生地

下の生地が機械織、上が手織り。手織りは反物の耳端が波打っているのがわかる。

世の中には様々な黒い生地がありますが、泥染による黒生地はその色の深みが大きな魅力です。自動織機で織ることで手織りの趣は失われていますが、大きくコストダウン、品質向上(織りムラがない)につながっています。一味違った奄美の泥染黒生地、こだわりの選択肢として加えていただければと思います。

一尺一寸に近いかなりの広巾で織られている。