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問屋の仕事場から

2024.04.09
夏の紬、本当に涼しいの? 

盛夏に位置付けられる7月と8月、外を少し歩くだけで汗だくになります。様々な夏向けの着物がありますが、工芸織物の中にも夏を冠した絹織物があります。

例えば、三大紬と呼ばれる結城紬、大島紬、塩沢紬or牛首紬ですが、申し合わせたように夏結城、夏大島、夏塩沢、夏牛首というブランドが存在します。いずれも「比較的」新しいもので、100年以上の歴史が必要な伝統的工芸品には指定されていません。

東郷織物の夏大島、全面亀甲絣の高級品。

「夏」とネーミングがつくからには盛夏に向くものかと思いきや、、、涼しくて手放せない、、という話は聞きません。夏のベストなおしゃれ着物の選択肢は近江縮や小千谷縮などの麻着物のはずですが、なぜこのような「夏」とネーミングされた着物が作られているのでしょうか。

参考:夏を乗り切る涼しい生地とは

紬は目の詰まった平織の絹織物ですので、真綿の保温性のよさと通気性の悪さは夏には完全に不向きな生地です。しかしこれら紬の産地は夏向けの織物を生産しておらず、夏向けの商品展開をすることで売り上げ増が見込まれました。すでに確立された伝統のブランドに「夏」というネーミングをプラスすれば、、、極めて商業的なコンセプトから生まれたのがこれら各種夏紬ということです。

夏は麻織物一辺倒だった時代もありましたが、現在は進化した夏紬達が私たちに贅沢な選択肢を与えてくれているのです。

練り加減を調整した糸を使うことでシャリ感を演出した夏赤城。

 

とってつけで出来た夏紬の実力は?

夏に向かない絹布を「夏化」するにはふわっとした真綿系の糸、紬糸を使わずに平滑な絹糸を使用します。そして糸数を間引いて生地目を粗くして通気性を確保します。さらに糸に撚りをかけた強撚糸を使うことで、サラッとした肌あたりを実現します。

これらの夏紬が出始めた初期の頃は、とれも夏向きとは思えないひどい商品が出回っていた頃もありました。とりあえずネーミングだけ夏プラス有名産地にすれば売れるだろうというコンセプトの商品群です。

謎の反物「盛夏結城」、とりあえず結城とつけておけば売れるというネーミングコンセプト。

お店の人に夏にでも着用することができます、涼しいですよと勧められて着用してみたものの、まったく盛夏向きではないと騙された気分になった消費者も多かったのではないでしょうか。良識ある問屋、呉服店はこのような代物は扱いませんでした。

しかし様々な技術を取り入れるなどして次第に品質が向上、何十年か経つとすっかりと定番化してしまいました。

強ねん糸使用と記載された夏塩沢、さらっとした生地に仕上がっている。

夏向けに進化した有名紬たちですが、汗だくになってしまうと自宅で洗うのは難しい生地です。洗うことができないカジュアル夏服、、、市場に受け入れられるはずがないと多くの業界関係者は思っていました。

しかし今でもこれら夏紬は作り続けられています。売れないものは作り続けることが出来ませんから、市場に受け入れられ成功を収めたということです。

これら正絹の夏紬がなぜ受け入れられているのでしょうか。

それはやはり麻織物にはないエレガントさ、さらっとした上質な手触りがあるからです。麻の涼感やメンテナンス適性がいくら優れていても、絹の総合的な美しさの魅力が上というケースがあります。

シワのいきやすい麻が苦手で「絶対に絹」と言われる方も一定数いらっしゃいますし、盛夏に麻織物ではなくあえて絹織物を着る粋さも素敵で、麻派の方にも別の選択肢の提供があってもよいわけです。

少し前に紹介した夏大島、実際には単衣向きである。

また、これら夏紬は汗だくになる盛夏に限定することなく従来の単衣時期に着用されています。暑い期間が増えてきた昨今は夏紬が活躍する出番は増えています。

市場を求めて涼しげな生地に進化した夏紬、もとになったオリジナル紬とはだいぶ性格の異なるものです。実際には単衣向きなのか、盛夏でも着ることができそうなのか見極める必要があります。ネーミングのイメージだけではなく実際に生地に触れてみて判断いただければと思います。

 

 

 

 

 

 

 

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