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問屋の仕事場から

2020.06.24
夏を乗り切る涼しい生地とは

高温多湿な日本の気候、いかに涼しく乗り切るか先人たちは知恵を絞ってきました。数百年にもわたって引き継がれてきた伝統の布は、科学技術の進んだ現代の素材にも引けを取ることはありません。

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酷暑とも言える日本の夏を乗り切る生地を考察してみたいと思います。

高温多湿な日本の夏、今も昔も炎天下の中の農作業は暑さから逃れようがない。

突然ですが、人が暑いと感じる理由はどうしてでしょうか。人の体温(肌の温度)が36度、外気温が35度の場合、理屈(差し引き-1度)からすると涼しく感じられるのではないでしょうか。しかし外気温が30度でも汗だくとなってしまうのが現実です。

人は代謝をはじめ様々な方法で熱を排出していますが、外気温30度近くなると自由に熱が排出できなくなります。そこで体温を調節するために発汗、汗が気化する時の気化熱によって肌の温度が奪われ、皮膚の温度を下げる仕組みになっています。

一番効果的なのは水に浸かってしまうことです。水は熱伝導率が高く、水温が低ければ低いほど皮膚の温度は急激に下がります。次に効果的なのは風、汗の蒸発を促進する効果があり、気化熱による放熱を促してくれます。

まさに人が涼しく感じるポイントは「皮膚の熱を奪う」ことにあるのです。

 

人はアザラシではないので、好きな時に水に入ったり、常に風の当たる場所にいることはできません。人類社会では裸でいることも憚れますし、脈々とした歴史の中で地域に応じていかに涼しく過ごすか、人々は知恵を絞ってきました。高温多湿な日本においても、辛い暑さをしのぐ工夫が見られます。

中庭から風を呼ぶ構造の京町家、涼しげな夏のしつらえ。

例えば国家君主(天皇)をはじめとする貴族(高所得者)が多かった京都(盆地で特に高温多湿)においては、いかにして夏の暑さをしのぐか、様々な工夫が考案されました。京都に残る町家には中庭(坪庭)があり、そこに打ち水などをすることで空間に温度差が生まれます。中庭と外の温度差は空気の移動を促し、風が部屋を駆け抜けるのです。

エアコンの普及によってこの「自然の扇風機」ともいえるシステムは、現代建築の設計思想からなくなってしまいましたが「換気」「エコ」がキーワードになる昨今、見直されても良いのではと思います。

 

ベストは肌にまとわりつかない麻の接触冷感生地

前置きが長くなりましたが、どのような服が一番適しているのか、結論からすると「近江ちぢみ」や「小千谷ちぢみ」を代表とするシボ加工がされた麻生地となります。

重要なキーワードである「接触冷感」「吸湿性」「速乾性」「強度」「抗菌性/消臭性」「エコ」をもつ麻、デメリットである「肌触り」「メンテナンス性」についても克服して高次元でバランスをとることに成功しているからです。

近江ちぢみの着尺、縞柄が基本である。

一つ一つを見ていきましょう。

 

「接触冷感」

麻布は肌に触れた時に、肌の熱を奪う接触冷感機能が高い生地です。麻は熱伝導性が天然繊維の中では突出して高く、肌の熱を素早く生地に移して発散させてくれます。現代では化学繊維でヒヤッと感をうたった寝具などが人気ですが、古来から麻は天然の接触冷感生地として用いられてきました。

「吸湿性」

麻の吸湿性は綿の数倍と言われ、汗をいち早く吸い取ってくれます。麻の繊維の断面はマカロニのような中空構造となっていて、素早く水分を繊維の中に取り込む構造になっています。

「速乾性」

麻は速乾性に優れ、洗濯しても吊っておくだけですぐに自然乾燥します。吸湿性に優れた麻繊維の中空構造ですが、吸い込んだ水分をいち早く外に蒸散させる作用も合わせ持っています。

「強度」

麻はロープに使われるほど大変強度に優れれた素材です。細い糸で服地としての強度をもつ生地を作ることができ、軽く薄い生地は夏服として大変重宝されます。スレや紫外線にも強く、麻の生地は長く使うことができます。

「抗菌性/消臭性」

速乾性に優れた麻は水分を必要とする細菌の増殖が起こりにくく、バクテリアの発生率が低い繊維です。バクテリアは臭いの元にもなりますので、防臭効果にも繋がっています。

「エコ」

麻は有機栽培に適した植物で、コットンのように環境負荷がかからない作物といえます。綿はあえて「オーガニック」と訴求する商品がありますが、麻は昔からオーガニックであることが当たり前の「エコ」な繊維なのです。

 

以上、夢のような繊維である麻、メリットばかりをあげましたが、シワになりやすいのでメンテナンスが大変、強いシャリ感が肌触りとして受け付けない、価格が高いという意見から被服の世界ではメインストリームになりきれていません。

 

デメリットを克服したコンニャク糊加工の近江ちぢみ

近江ちぢみとは滋賀県で「ちぢみ」加工された生地のことで、数百年の伝統を誇る近江上布をルーツに持ちます。ちぢみ加工とは緯糸に撚りをかけた生地を、仕上げ段階で揉み込んで加工することです。

経糸方向にシワがある近江ちぢみ、本来直線である経縞がヨロけて味が出ている。

表面にシボ(シワ)のある生地は肌との接触面積を減らし、肌にまとわりつかないサラッとした生地になります。シボの隙間には風が通り、汗で蒸れてジメジメとすることなく快適に過ごすことができます。

伝統の近江ちぢみは着物だけではなく、服地、寝具などにも展開されています。

近江ちぢみのシャツ、洋服地にも積極展開されている。

最初からシワがあるので、アイロンをかけて生地を伸ばす必要はありません。アイロンフリーとも言えるちぢみ生地は麻の弱点であったメンテナンス性を大きく向上させています。

また、多くの人が麻といえばチクチク感を思い浮かべるかもしれません。麻は硬質感と強いシャリ感がありますが、それが繊維の特性でもあり、清涼感(接触冷感具合)とトレードオフの関係となります。そこで食品にも使われるコンニャク糊を糸自体にコーティング、毛羽立ちを抑えることでチクチク感を抑制することができます。

コンニャク加工の麻襦袢生地、麻のあのチクチク感がない。

麻のシャリ感がなくなると冷感具合もなくなると思いきや、コンニャク糊加工をした生地は接触冷感(Q-max値)はむしろ向上するという驚きの結果になっています。

そしてその生地を更にちぢみ加工、肌との接触面積自体を減らしてベトつかない最高の生地に仕上がっています。メンテナンス性と肌触りをクリアしたコンニャク加工の近江ちぢみ、日本の夏を乗り切る相棒として離せなくなることでしょう。

白衣などに使われる近江ちぢみの白生地、こちらもコンニャク糊加工でサラッとしている。

無地感覚の本麻近江ちぢみ、シボが流れるように立っているのがわかる。

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