結城紬、大島紬をはじめとする様々な伝統工芸織物は「手織り」で…
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問屋の仕事場から
- 2021.01.25
- 世界で最も高価な生地とは 〜日本の手仕事の布たち〜
世の中には様々なピンからキリが存在しますが、生地においては世界で最も高価な生地がこの日本に存在しています。
高級な布といえば、一般的にはカシミアやビキューナなどの動物性繊維を使った毛織物を思い浮かべるのではないでしょうか。毛織物もピンからキリまで様々なランクがあり、加工方法や、ブランドの付加価値によっても価格が異なります。
例えば最高級カシミア100%を使ったエルメスのストール(175㎝×70㎝ 1.225㎡)の価格が15万円ほど、1㎡あたりの価格は約12万円の計算となります。
手芸屋さんではウール1㎡が千円代で購入できますから、その差は100倍もの大変高価な生地になります。
しかしそれ以上の高級な生地が日本には存在しているのです。
世界最高の綿、絹、麻の生地
日本の染織文化が生み出した最高級の生地、それも希少な獣毛ではなくありふれた綿、絹、麻で作られています。
その1㎡あたりの単価は
丹波布(綿):14万円 ※格子の着尺
結城紬(絹):18万円 ※地機の白生地
越後上布(麻):50万円 ※重文技法の白生地
※価格はいずれも実勢小売価格で参考値、リンクは各詳細ページに飛びます
結城紬と越後上布はユネスコの世界無形文化遺産にも登録されている織物で、いずれも最高級カシミアを凌ぐ価格になっています。
しかもこれらはハイブランドの商品のようにブランド価値が一切付加されておらず、通常の流通ルートを介した場合の良心的な価格設定です。仮にエルメスが結城紬の生地を使った商品を売り出すとなると、さらに大幅に跳ね上がる可能性があります。
今回紹介したのは単純な白生地の価格ですが、全面に絣が入るような代物ですと結城紬や越後上布はさらに2倍以上にもなりますし、これらの白生地に友禅や金彩、刺繍などを施せば大変な値付けがされることでしょう。
これらの織物が高価な理由は原材料である糸が高価だからです。効率的に大量生産された機械紡績糸ではなく、人の手仕事で一つ一つ古代から伝わる手法で糸造りが行われています。熟練の作り手が1日にわずかしか作ることができない糸はまさに人件費の塊なのです。
それらの糸はいたずらに粗野なものではなく、不純物を取り除き可能な限り均質な細さにそろえられた最高級の織物にふさわしい糸質です。
最高級の糸を使い、機械に頼ることなく手織りする、恐ろしいまでの根気のいる作業の果てに、洗練された最高の生地が完成するのです。
長年に渡って磨かれた熟練の技は決して人件費の安い国外ではできません。コストダウンを目的に無理やり海外生産移転してしまえば品質は目も当てられなくなり、完全の別物になってしまいます。
例えばこちらの中国産の綿布、土布と呼ばれる糸から手作りされた生地です。
白生地で目立ちやすいのですが、ところどころに綿花のゴミも織り込まれています。糸の太細もバラバラで粗野さが目立つ生地です。これが工芸品である丹波布との違いで、その価格差は10倍以上になります。
キレイな糸を作れるようになるには何年もかかります。人件費の安いところで適当に人を集めて一朝一夕で出来るようなものではありません。悠久の歴史の中で磨かれてきた技術、そう簡単には海外移転することはできないのです。
呆れるほどの品質への追求が付加価値となって、世界一高価な生地=世界一美しい生地を作り出しています。
車が買えてしまうほどの大変高価な生地ですが、実は大変リーズナブルな生地だとも言えます。仮に海外のハイブランドが結城紬のワンピースなどを作ったとしたら、ブランドの価値が負荷されて本来の生地価格の10倍にもなることでしょう。
残念なことに、萎む和装市場において、これらの生地を作り続けることは困難になっています。特別な趣味のアイテムである着物だからこそ存在が許されている世界一高い生地、服地や小物用、テキスタイルとしての活路を見出さなければ、いずれは途絶えてしまいます。
日本が誇る世界一美しい生地、少しでもその片鱗を知っていただければ幸いです。