越後上布(重要無形文化財)といえば、そのあまりにも手間がかか…
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問屋の仕事場から
- 2019.06.23
- 広巾の男物越後上布
最高級の麻織物である越後上布、特殊品中の特殊品ともいえる広巾の男物を紹介します。
原料となる糸を半年かけて績み、地機で3ケ月かけて織り上げる。気の遠くなるような手間をかけて作られる越後上布、その伝統的な手法は国の重要無形文化財はもとより、ユネスコの世界無形文化遺産に登録されるほどです。一年間に作ることのできるのは20~30反ほど、希少性、価格も相まって着物好きにとっては垂涎の的となっています。
伝統柄を中心に様々な柄が作られますが、反物の巾は女性向けの1尺(約38cm)が基本で広巾の商品は原則作られません。日本人女性の体格がよくなった現在では巾一尺では裄丈が足りないこともあり、せっかくのお気に入りを見つけたとしても諦めざるを得ない残念なケースもあるでしょう。ラフな(価格面ではラフではありませんが)オシャレ着物ですのである程度の短寸は許されるかもしれませんが、180㎝を超える高身長の男性の場合では全く話になりません。
仮に180㎝の男性の場合、裄丈が少なくとも2尺(約70㎝)は必要になります。縫い代に両耳3分ほど必要ですので、仕立てる前の反物の幅としては(2尺+3分×4回分)÷2=1尺6分が最低限必要となります。もちろん体格にもよりますし、肩巾より袖巾を多くとることもありますので、商品としては余裕を見て1尺7、8寸は欲しいところです。
そして男性向けとなると一般的に柄物は適しませんから縞や無地となりますが、縞の商品自体は希少で男性向きのものを探すのが困難。無地の商品にいたっては皆無といってよいでしょう。
越後上布(重文技法使用品)においては 「男物の無地」 といった当たり前の商品が世の中にないのです。
広巾の商品が存在しない理由は、コストの大半を占める、限られた原材料(手績みの苧麻糸)を効率的に使いたいからです。慢性的な糸不足の中、需要が少ない男物や大柄の女性向けに貴重な糸を割く余裕はありません。
無地の商品がない理由は、限られた原材料の中で数字を追求するからです。どうせ同じ糸を使うのであれば、無地や縞のシンプルな商品を作るより倍の価格で売れる絣の商品をつくった方が全体の売上高UPに貢献します。そして無地の場合は織り上げた際には縞立ちが目立ってしまい、きれいな無地を作ることができなくなりました。昔と異なり均質な細い糸が安定的に取れなくなった事情もあり、無地の商品は作られなくなったのです。
冒頭の写真の越後上布、遠目には無地に見えますが実はハケメ格子と呼ばれるものです。広巾で作られた特殊品で、身長の高い人にも十分対応できる商品です。一口に越後上布といっても小千谷縮と同様に様々なランク、種類があります。この商品は最高ランクの重要無形文化財の技法を使ったもの、さらに広巾ですので特殊品中の特殊品ということができます。
越後上布の男物(広巾の着尺)を求めるには
一時期は年間生産反数が20万反を数えたという越後上布、現在ではその生産数は激減(20反~: なんと1万分の1)してしまいました。そして高身長の女性や男性が越後上布の無地が欲しいとなった際に、市場在庫からはまったく応えられない状況です。
広巾の無地が欲しいとなった場合には白生地から染めるという手段をとることになります。反物を一からオーダーする別誂えという形で、織りあがった生地を任意の色に後染めするのです。生地は紡績糸のように糸の細さが均質ではなく、手織りによる織ムラも所々にあります。何も考えずに染め出しすると必ずムラになってしまうので、高度な技量と覚悟が必要です。
廣田紬では越後上布の広巾の白生地の別誂えが可能です。在庫リスクを回避することができる別誂えはコストを抑えることができます。仮に羽織を作る場合は要尺も少なくて済みますし、小柄な女性で無地が欲しい場合も巾を抑えて織ることができます。越後上布のように特に糸が貴重で、コストの大半を占めるといった場合、別誂えは大変効果的といえるでしょう。
場合によっては高級車が買えてしまう価格になってしまう越後上布、広巾(男性向け)、無地の商品は別誂えでのみ対応が可能です。納期も一年を要しますが、あきらめずにお任せいただければと思います。