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問屋の仕事場から

2018.06.24
伝統的工芸織物の別誂えのススメ

結城紬の反物

着物の別誂えと聞くと、なんとなく大それたイメージを持つ方がいるかもしれません。既存の在庫から商品を選ぶのではなく、オーダーメイドで一から作りあげるのですからとても手間がかかり、高価なものになると思われているのでしょう。

例えば某ファストファッションブランドのシャツについて考えてみます。そのシャツは何万枚と売れることを前提に作られており、スケールメリットのおかげで低価格(1000円)で販売されています。そこであなただけのオリジナルサイズ、カラーを一枚だけ発注するとします。それが1000円で手に入るかというと、おそらく数十万円の試作コストが掛かってきます。

巨大企業がその一枚のシャツを作るためにはイレギュラーなコスト(人件費、加工賃、染め賃、輸送費、管理費など)が発生します。一着だけの為に、巨大な生産ラインにノイズを発生させるのは生産現場から嫌がられますし、販売サイドとしても新しい型番が生じたりと管理コストの点から好ましくないことです。

発注側も受注側もお互いメリットがありませんので一点だけのオーダーメイドという発想は起きないのです。

 

一方、高級衣料品ではオートクチュール(仏語: haute couture)という分野があります。

ステージに着飾った人がたくさん

オートクチュールのファッションショー (シャネル)

使用者の寸法に合わせるのはもちろん、素材、デザイン、カラー、何から何までオリジナルの一点ものをつくるというものです。当然それ相応のコストがかかり、限られたメゾンしか作ることができません。オートクチュールは一着当たり数百万円からという現実離れした価格帯で王侯貴族やセレブが主な顧客となっています。

 

先染め織物も別誂えが可能

着物の分野ではこれらを別誂え品といいますが、王侯貴族やセレブでしか求めることができないのでしょうか。

後染め織物(訪問着や付下げなど)の別誂えは既に世の奥様方の間では一般的に行われてきました。それは着物がもともと使用者の寸法に合わせたオーダーメイドの仕立て品であることと、後染めの織物は白生地の上に直接職人が描いていく工程のため一点物でも対応ができるためです。

新しくデザインを起す費用はかかりますが、多くの在庫リスクを持つことを考えると有り余るほどのメリットがあるのです。

白大島

大島紬は絣糸をまとめて作るため、8反や16反など、まとまった生産ロットが必要になる。

一方、先染めの着物は生産ロットの関係で別誂えは一般的ではありません。問屋が機屋にまとめて発注するからこそ成り立つ生産方式がとられてきたからです。大島紬などはその典型例で、一度にまとまった数量を発注します。絣を締めるのに手間がかかりますが、その際に出来るだけ同時に絣糸を作れたほうが効率が良くコストダウンにつながるのです。仮に大島紬で別誂えの一点物という商品があるとしたら大変なコストがかかっているということです。同じことが結城紬や塩沢紬といった絣を多用した他の織物にも言えます。

 

それでは先染めの織物の別誂えは現実的ではないのでしょうか。実は条件次第で一反からの別誂えも可能です。それも特別なコストを要さずに。

先のシャツの例では、巨大組織の中ではたくさんの人が介在する上に、システマチックに生産ラインが組まれており、一枚のオリジナルシャツが入り込む余地がありませんでした。しかし伝統的工芸織物の分野では個人の裁量で小回りの利く対応が可能です。

格子の紬

白黒2色の格子柄、この場合白糸は染めないので実際の染の手間は色無地と変わらない。

絣を多用しない縞格子の織物は元々の生産ロットが一柄につき2反しか作らないことも特別ではありません。結城紬や久米島紬もごくごく小ロット生産です。そのなかで一反だけ誂え品を作るということは、大きな負担にはならないのです。市場で売れるかどうかわからない商品を複数作り長期間在庫を抱えるより、すぐに消費者のもとに届く商品を一反作るほうが効率的なのは明らかです。

そして先染めの織物は後染めの織物と違い、反物自体のサイズも別誂えすることができます。大柄な人であれば特別に広い幅を作ることもできますし、小柄な人であれば反物の幅を狭く、短尺で織ってコストを抑えることも不可能ではありません。

 

別誂えはWin-Winの関係

伝統的工芸織物はその価格帯から購入することのできる層が限られています。市場規模が落ち込んだ中、いつ売れるかわからない高額品を販売店が在庫として抱えるのは困難で、問屋が在庫機能、物流機能を果たしてきました。中にはいつまでも売れずにデットストックとしてお蔵入りになるものもあります。

屋号のはいったグレーの生地

織り出し口にお店の屋号など、絣で任意の文字を入れることも可能です。

 

 

確実に消費者に届く商品を作ることができれば、余計なコストが省ける分を価格で還元することが可能です。効率よく在庫を回転させることができれば産地も潤います。問屋の在庫機能を否定するわけではありませんが、それほどに伝統的工芸織物の生産量は落ち込み危機的な状況なのです。

生産者から消費者のもとに届くリードタイムを縮めることは確実に産地の活性化に繋がります。消費者、生産者、流通、皆がWin-Winの関係になるのが別誂えなのです。

どうしても納期は要してしまいますが、世間にありふれていない特別な商品作りが可能です。廣田紬では長きにわたり製造問屋として営業してきた豊富な実績がありますので、ぜひ一度ご相談ください

※一般の消費者様からの直接の注文はお受けしておりません。必ずどちらかの販売店様経由となりますので予めご了承ください。お問い合わせいただきましたら販売店様を紹介差し上げることも可能です。