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問屋の仕事場から

2018.01.17
ワンランク上の麻織物 古代越後上布

青い十絣の越後上布

越後上布といえば麻織物の最高級品として知られています。精緻な絣の着尺は数百万円することも珍しくありません。いくら素晴らしい織物といっても普段着としてはとても現実的でない価格です。そこで本来の越後上布の風合いを出来るだけ保ったまま、素材、技法を変更することでコストダウンを実現した「古代越後上布」が登場しました。

苧麻の茎を裂いて繋いだ糸の塊、こちらは漂白されない状態のため生成り色。

越後上布が高価な理由は、経糸緯糸ともに手績みの苧麻を使用し、手で一つ一つ絣を括り、イザリ機で手間をかけて織るからです。昔ながらの重要無形文化財指定の技法で作るとなると、製糸から織りあがるまでに1年以上がかかります。その制作工程は技術保存協会のページで分かりやすく解説されています。

白い麻糸

手績みの苧麻糸(漂白済)、一日5g程しか作れず、一反分つくるのに半年から1年という歳月を要する。

中でも気の遠くなるような作業を繰り返す苧麻の手績み糸、これを機械紡績のラミーに置き換えることで大幅なコストダウンが可能となりました。ラミー(Ramie:フランス語)は苧麻のことで、繊維業界で単純にラミーと言えば機械紡績された苧麻糸のことを指します。

100%手績みの糸で作られた「重文」越後上布。高級車が買えてしまう。

原産地は主に中国や東南アジアで、主に茎の部分の繊維が使われます。機械紡績というとなかなかイメージが湧きませんが、材料を高温高圧で薬品処理した後、複数の工程を経て糸になります。紡績ラミー糸は和装分野にとどまらず様々な繊維材料として大量生産されるため低コストで供給されるのです。

100%苧麻の紡績糸で作られた「ノーマル」越後上布。

手績み苧麻糸(経糸)は常に強い張力がかかった状態の高機で織ることができません。手で一つ一つ継いでいくため、どうしても糸が切れやすいのです。それに対し紡績ラミー糸は継ぎ目が存在せず、高機の強い張力に耐えることができます。高機を使うことでこれまでの何倍もの効率で織り進めることができるようになりました。

しかしこの紡績ラミー糸を100%使うのはどうも味気ないということで、緯糸に一定の割合で手績み苧麻糸を使ったのが古代越後上布です。

冒頭の写真、白地に青い十字絣の商品の組織を拡大をしてみます。

経糸の太さは同じですが、緯糸に太さの違う糸が混ざっているがわかります。節糸のように見えるのが手績み苧麻糸で、5~6本に1本の混率で織り込まれています。

組織を拡大

矢印部が手績み苧麻糸、継ぎ目もところどころに存在する。

均質で細い紡績ラミー糸に対し、太い手績み苧麻糸が織り込まれているのがわかります。古代越後上布をお選びの際はまず緯糸の手績み苧麻糸の混率(0%の場合も100%の場合もあり)に注目したうえで実際の風合いをお確かめください。

古代越後上布の拡大

異なる太さの緯糸がランダムに混ざり、ヨコ筋となってあらわれている。

南魚沼市の文化財指定技術で作られた古代越後上布には塩沢織物工業組合が発行した証紙がついています。組合を経由していないものは証紙はありませんが素晴らしい出来のものもあるので注意が必要です。

古代越後上布の証紙、他にも織元が独自に貼り付けたものがある。

例えが適切ではないかもしれませんが、手績みの苧麻糸は味わい深い手漉きの和紙、紡績ラミー糸はパルプから作られる味気ないコピー用紙のようなものです。人の手による手仕事の味はやはりどこか懐かしい温もりを纏い、数値化できない付加価値になっています。

もしこれをすべてラミー糸、自動機械織りで作ってしまうとペタッとした面白味に欠ける風合いになり、本来の越後上布とは及びもつかない商品になってしまうでしょう。そのような商品と比較すると「古代」の手法で作られた古代越後上布のその風合いは堂々たるものです。

雪さらしをしている絵

古代越後上布も重要無形文化財の技法と同じく雪さらしが行われる。

従来の越後上布はその材料、工程の制約からとても現実的でない価格になってしまいました。当たり前の合理化の末生まれた古代越後上布は、単なる廉価版という位置づけにするには不憫です。熟達の職人により手織りされたその地風は全国の様々な麻織物のなかでもワンランク上の優れものです。

なにしろ重要無形文化財の越後上布を製造している織元が作っているのです。麻を知り尽くしたスペシャリストが作り上げた麻織物は越後の上布の名に恥じない逸品として、これからも着物好きに愛されていくことでしょう。

白い生地

古代越後の白生地、こちらは手績み苧麻の使用率が記載されている。

十字絣の商品、手織りで丁寧に絣合わせがされている。

 

 

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