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問屋の仕事場から

2019.02.15
絣糸を使わない本場「奄美」大島紬

大島紬といえば経緯絣を駆使した絵絣模様が特徴ですが、絣糸を使わないシンプルデザインの商品も作られています。今回は手織りにこだわった奄美産地のシンプル大島の紹介です。

鹿児島産地で作られるシンプルデザインの縞大島は自動織機で作られますが、奄美産地においては無地、縞、格子といった商品は手織りで作られています。技術的には自動織機で織ることができるのにもかかわらず、あえて時間のかかる手織りで作られているのです。かかる人件費がそのまま価格に反映されますが、手織りの味を求めて割高ともいえる奄美産の大島紬が選ばれているのです。

本場大島紬の証紙 上が「旗印」の鹿児島産地、下が「地球印」の奄美産地

ここで縞、格子柄などの絣の入らない大島紬は本場大島紬と言えないのではないかという疑問があると思います。伝産法が定める伝統的工芸品としての本場大島紬については、「絹の先染め平織であること」、「絣を手合せして模様を作ること」、「指定する特定の産地で作られること」が求められています。そうなると「絣」を使わない限りは本場大島紬とは呼称してはならないのです。

冒頭の写真の色大島、多色の市松柄ですが、しっかりと金色に輝く伝統マークシールが張り付けてあります。色違いの箇所は経糸と緯糸の色の組み合わせにより作られたもので、わざわざ絣糸を配置したものではありません。しかし実は反物の端をよく見てみると、緯絣が織りこまれています。

織端の数センチだけ柄が違っても、仕立てには影響しません。伝統的工芸品の条件を満たすために、ほんの一部だけに無理くり何らかの絣糸が入れ込まれているのです。姑息と言われればそうかもしれませんが、ちゃんと条件を満たしていますよという点では出生や製造技法がどうも怪まれる他産地の一部の商品と比べて正直物といえるでしょう。ちなみに奄美で作られる大島紬の生産内訳データ(検査ベース)のうち、大半が緯絣糸で絵絣にした商品ですが、緯絣の商品は9%(390反)、この中に無地、縞、格子の商品が含まれていることになります。

縞の琉球絣、「かすり」という名を冠した伝統的工芸織物でも絣糸が使われていないものがある。

 

そしてこちらの証紙、滅多に見かけることがありませんが、伝統的工芸品の条件を満たさない奄美産の大島紬に張り付けられるものです。

奄美産地と記載された証紙。ここも薩摩(日本国旗)に対抗した地球印がトレードマーク。

こちらは少しだけ絣糸を入れるというマネはしていません。織端の織元を示すロゴマークも絣糸で作られているのですが、それをカウントするのはNGなのでしょう。こちらは機械製織ではなく、すべて手織りの商品です。この証紙はすべて機械織であるとされることがありますが、それは間違いです。

なお、鹿児島産地で作られる縞大島(オレンジ色の証紙のもの)がすべて織機製織されたものであるというのも正確には間違いで、反物の耳の有無で識別するというわかりにくいルールが採られています。オレンジ色の証紙が張られた商品でも手間をかけて手織りされた逸品もありますので注意が必要です。

 

前置き、ウンチクが長くなり申し訳ありませんが奄美産地で作られるシンプルデザインの商品を紹介していきます。縞だけでは少々芸がないので組み合わせ次第で様々な表情を見せる格子柄がメインです。

組み合わせ次第で驚くほど多彩な格子模様が生み出されます。機械織だとしっかりと横段のピッチが合うのですが、手織りの場合は織子さんの目測のため長さがズレることもしばしば、そこはご愛嬌ということで手織りの証です。

また、絣糸は使いませんが、クズシ柄であれば絣にも劣らない複雑な柄を演出することができます。

精巧な絣のように見えるクズシ柄、色縞との組み合わせで更に複雑さが増す。

そして究極のシンプル大島ともいえるのが無地タイプです。

化学染料では決してマネのできない美しい泥染の深みをもつ。

こちらは泥染の無地で紬糸を緯糸に使った珍しい商品。泥染のしなやかさと、どこまでも吸い込まれそうな色の深みをしっかりと主張する素晴らしい逸品です。これを見ていると大島紬の魅力は柄の精緻さだけではないという良い一例です。現在は経緯ともに平滑な生糸を使う大島紬ですが、元をたどれば紬糸を使った素朴な商品が作られていたのですから、伝統云々いえばこちらのほうが正当派です。島の自然の恵みを生かしたシンプルな商品展開の更なる拡充を期待したいところです。

絣を使わないシンプルなものでよいので、泥染や草木染の魅力が伝わる商品に期待。

鹿児島産地で作られる縞大島に対して何十倍もの時間をかけて作られる本場「奄美」大島紬、高コストの商品作り成り立っているのはそれだけニーズがあるからです。また大量生産される縞大島とは違い、数反しか作られない希少性も魅力の一つです。奄美産地で自動織機を導入するとなると一定の受注量が必要ですし、メンテナンス等の運用コストもかかります。仮にコストが10分の1でもその商品物が10倍以上売れるかというとそう単純なものではありません。

100年経っても使用可能な小型でシンプルな手織り機、電力不要で写真のように可搬性にも優れる。

先の中越地震の際に機械設備にダメージを受けた機屋さんが、機械の修理コストを回収できる目途がたたず生産をあきらめた一方、伝統的な手仕事の布については継続することができました。現在のマーケットではよほど利益のとれる商品展開をしない限り、設備投資のイニシャルコストが回収できるビジネスモデルではないということです。

絣糸を使わない本場「奄美」大島紬、多彩なバリエーションに加え、リーズナブルな価格競争力も魅力です。大島紬といえば精緻な絣柄に焦点が当たりがちですが、絣糸を使わないシンプルなタイプにも注目してみてください。そのデザイン性が消費者ニーズをとらえた時にこれほどお買い得な織物はないのですから。