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問屋の仕事場から

2019.01.03
店主の粋がお客様に伝わるこだわりの暖簾 

お店の玄関を飾る暖簾、遠目に見ればどれも同じに見えますが、入店時にはお客様が必ず触れることになります。それがお客様の心をくすぐるようなこだわりの暖簾であれば、幸先の良いおもてなしのスタートを切ることができます。

和のしつらえのお店であれば、店先に必ずと言ってよいほど暖簾がかかっています。機能としては店内の目隠し、遮光、防塵、防風等のために設けられているものですが、暖簾の生地にはそのお店の扱う商材の形や名前、屋号が染め抜いてあったりと、一種のアイコン、看板としても重要な役割があります。そして物理的な障害物ではない暖簾は、内と外を完全に仕切ることなく、お客様が入店しやすくなる効果もあります。

また「暖簾を守る」「暖簾を汚す」「暖簾を分ける」などの用語があり、企業の無形のブランド価値を図る会計用語としても使われているほどです。暖簾は単なる結界ではなく、お店の信用力、商人の魂として特別な存在であるといってよいでしょう。

 

昔ながらの建築物が多く、老舗の商家や料亭が数多く現存する京都では町のいたるところで独自の暖簾を見ることができます。

京都の老舗の暖簾の数々、店主のこだわりが伝わってくるものが多い。

暖簾のサイズ、規格

暖簾の幅は基本的に使用する箇所の間口(幅)と同じ寸法にします。小幅(一尺:38cm前後)の反物巾を複数枚(奇数が多い)並べることになります。大きな間口ですと5枚を繋ぎ、2mの幅になることがありますし、百貨店などの場合は5m以上の幅の巨大な暖簾がかけてあります。

長さは3尺(鯨尺で約113cm)が基準ですが、店内の陳列品を見せたい場合は短くしたり、質屋などのプライバシーを重視する場合は長くしたりと用途に応じて長さの調節がされます。竿に通すタイプが一般的ですが、通す箇所の仕立て方は、生地を一周させてその間に竿を通す「袋仕立て」、生地の上部にループを作りその間を通す「チチ仕立て」のがあります。「袋仕立て」は「関西仕立て」とも呼ばれ、それなりに要尺が必要ですが竿を通すときにそのまま一気に通せる楽さがあります。

左:関西に多い「袋仕立て」(左)  右:関東に多い「チチ仕立て」

暖簾は一度作ると数十年は持つでしょうから、そのデザインにはこだわりたいものです。防染しての染め抜きやインクジェットでのプリント捺染、筆での手描き、刺繍等、様々な手法で自由にデザインをすることができます。しかしその素材へのこだわりは少々無頓着なように思えます。

 

素材にはこだわりの麻を

屋外で使う際はまず耐久性が第一、紫外線劣化に強い麻などの自然布をお勧めします。絹は紫外線を吸収(UVカット効果 90%)してくれますが、すぐに繊維が劣化してしまいます。染色加工特性は大変よいのですが、屋外暴露しておく素材としては耐久性の観点で失格なのです。麻はとても強靭な繊維で、長期間紫外線に晒されていてもなかなか劣化が進みませんし、水にぬれても強度が落ちるがありません。屋外で使うことが前提の土嚢袋は麻製が定番だったように麻は屋外暴露に大変強い素材です。

和装の世界で麻と言えば夏物にしか使えないイメージがありますが、耐久性が求められる暖簾には冬でも麻が使われます。また、麻布は繊維自体にコシがあり、ほどよい硬質感をもちますので風が当たってもヒラヒラと揺れにくい特性もあります。

風が吹いても繊維にコシがあるため全体が舞う。化学繊維や薄い綿布だとヒラヒラと安っぽさが出てしまう。

そして一口に麻といってもさまざまな種類があり、糸質も様々です。機械製糸された紡績糸の場合は糸に節がなく、布にしたときどこか味気ないものになります。手仕事によって作られた生地を使うことで、生地に豊かな表情が生まれます。毎日何十年も使うものですから、予算が許す限りのよい物を使いたいものです。

麻の産地である近江産地と深いつながりを持つ廣田紬では麻のプロフェッショナルとして最適な素材を提案させていただきます。

 

廣田紬の夏暖簾、生成りの手績み麻である。

 

夏には透け感のある素材を

一年中同じ暖簾をかけていてもかまわないのですが、やはり夏季は目の粗い透け感のあるものを使います。漂白をしていない麻本来の生成り地をお勧めですが、麻以外の自然布の出番でもあります。

夏暖簾は織り目が粗いため、逆光状態では背景が透けて見える。

シナ布、葛布、芭蕉布などの自然布は最高の素材で、それらはもともと太陽の光を浴び、風雨にさらされて育ってきたものが素材ですから対候性は抜群です。遠目には麻布に見えるかもしれませんが、くぐった時の感触はやはりそれぞれ独自のもので、布を愛する人を楽しませてくれます。

それらの自然布は完全に夏向けかと思われますが、吸水性がほとんどありませんので風呂場、温泉などの湿気のある環境では年中使うことができます。

家紋(梅鉢)が染め抜いてあるシナ布の暖簾。遠目には麻に見えるが、くぐってみると素材感に明らかな違いがある。

 

暖簾は素人でも自作が可能

暖簾を作る際には、市場で流通している既製品をそのまま購入するか、暖簾屋さんにオリジナルデザインを依頼するケースが多いと思います。プロが仕立てれば間違いのないものができてきますが、暖簾の構造自体は非常にシンプルですので、少し手に覚えのある人は容易に自作することが可能です。

風雨や紫外線の影響を受けない室内向けであれば絹でも使うことができる

暖簾は着尺の反物巾で作られていますので、好きな反物を買ってきて適度な長さに裁断、ミシンで加工すればすぐにできてしまいます。極端な話、古着を解いて使ってもいいのです。室内向けであれば絹を使っても問題はありません。経絣を使ったものであれば大変粋な暖簾になることでしょう。

結城紬の経絣着尺、室内暖簾生地としておあつらえ向きの柄である。

廣田紬では九寸帯地に使う紬のハギレも利用して暖簾を自作しました。二階展示場へ通じる階段に設置、冬場の暖気溜めの結界として温かい空気が上に逃げないようにしています。

廣田紬一階事務所階段の紬の暖簾、冬季に暖気が逃げないように自作したもの。

素人でも簡単に作ることができる暖簾、お気に入りの生地を室内暖簾として活用することができます。思い入れがあるけど着なくなったシンプルな紬の着物、着物であれば十分な要尺が取れますので解いて暖簾にしてみてはいかがでしょうか。

 

以上、単なる結界ではなく、お店の信用力、商人の魂として特別な存在である暖簾、お客様を招き入れる際に直接触れるものでもありますし、このお店は他とは一味も二味もちがうなと感じることのできる店舗づくりをすることができます。一度しっかりしたものを作ってしまえば何十年も使うことができますので、こだわって投資する価値があります。

デザインだけではなく、その素材にもこだわることでより一層、店主の粋がお客様に伝わります。廣田紬では麻をはじめとした全国の布から最適な素材の提案が可能です。用途、予算等、一度お問い合わせください。