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問屋の仕事場から

2020.07.19
粋に煌く飛び柄のシャンブレー大島紬

斬新な大島紬を独自デザインで創作してきた廣田紬、織物通もあっと驚く特別な技法の大島紬を紹介します。

大島紬はその精緻な絣模様が魅力で、全て経緯絣で柄が構成された物を総絣と言います。総絣ともなると絣あわせの交点の数が膨大になりますから、製織に大変な手間と時間を要することになり、価格もそれ相応のものとなります。

しかし消費者がそれを良しとするかどうかは別で、もっとシンプルですっきりとした大島紬が良いという意見や、飛び柄が粋で良いなという人が多いのも事実です。

飛び柄の白大島、シンプルながらも多色使いで粋な椿が舞う。

飛び柄は、同じ柄が上下左右反転の繰り返しとなることで模様を作り出しています。

絣の交点が少ないからといって、作るのが簡単というわけではありません。地空き(無地場)の箇所は織り傷が目立ちますし、ごまかしが効かない分、キレイに織り上げるのに高い技術力が必要です。

 

さて、廣田紬で作成したこちらの大島紬、なんの変哲もない丸紋の中に草花の飛び柄だと思われるかもしれません。

しかし織物組織のことに少し詳しい人が見ると、大変に手間のかかった商品だとびっくりされます。

それはポツンと真っ白い丸紋が現れ、その中に総絣の柄が入っているからです。地色(この場合は薄ブルー)が存在する生地に真っ白な丸紋を飛ばすのには、経糸と緯糸共に白い箇所を作りキレイに円になるように絣あわせをしないといけません。

美しく白抜きされた円の中に絣模様が浮かび上がる、従来の技法だと大変なコストを要することからこのような意匠は割に合わず、どこのメーカーも作ることができませんでした。なんとか白抜きされた丸紋の中に柄を入れようと、無理やり絞り染め技法で脱色後、友禅で描くということも行われているほどなのです。

しかしこの商品は絣模様のみで、リーズナブル(比較的ですが)にそれを実現しています。

それは廣田紬のアイデア特許とも言える画期的技法でした。

丸紋を拡大してみると緯糸方向に絣ズレが目立つところがあります。経糸方向には目立ったズレはありません。

勘の良い方はご理解いただけたかもしれませんが、この大島紬の経糸は全て白ベース、丸紋を作るのに至っては全て薄ブルーに染め分けられた緯絣糸で作られていたのです。

組織を拡大してみます。

 

織り端を確認しても経糸は常に白ベースであることがわかります。

輪郭と中の模様は経緯絣で作られていますが、ヨコソ(横総絣)と経緯絣を組み合わせることで斬新なデザインを可能にしていたのです。

豊かな光沢の大島紬、玉虫色に煌く。

経糸(白)と緯糸(ブルー)の色が異なることで、見る角度で反射する光が違って見えます。洋服の世界ではシャンブレーと呼ばれる糸の配置で、どこか一味違う大島紬として魅力的な光を放ちます。生地をうまく白抜きするための糸の配置ですが、副次的効果として素晴らしい地風に仕上がっています。

この商品は単なるコストダウンのアイデア商品かと思われがちですが、高い技術力を要する織元でしか制作はできません。同じ絣締めロットの中でも織る人が違えばそのクセが驚くほどよく出てしまい、ごく限られた人に限定してでしか織ることができません。

織元は高品質な大島紬作りで知られる中川織物さん。

大島紬としてはシンプルな柄ではありますが、丸紋に浮き出る絣、豊かな光沢があいまって、ダダものではないことが伝わってくる逸品の紹介でした。

 

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