斬新な大島紬を独自デザインで創作してきた廣田紬、織物通もあっ…
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問屋の仕事場から
- 2019.02.11
- シンプル十字絣の色大島
大島紬といえば精緻な泥染の絣織物が定番ですが、シンプルデザインで明るい色目の色大島も作られています。
従来の大島紬は地糸(ベースカラー)が泥染めのため、柄が賑やかなものであっても全体的なイメージカラーは非常に暗いものになってしまいます。いくら泥染めの技法や効果は素晴らしいものであっても、伝統に固執していては世の中のトレンドに置き去りにされてしまいます。
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素晴らしく精緻な絵絣の柄も地糸が黒系なので、どうしても暗い絵になってしまう。
昭和30年代には化学染料の普及が進み、従来の草木染では出すことが難しかった色彩表現が可能になりました。化学染料をつかうことで表現力の幅が一気に広がり、従来の暗いイメージを覆すデザインが増えてきました。
しかし付加価値を求めて多彩な色絣をつかった精緻なデザインは、色のバランスをとるのが難しく従来の泥染やシンプルな白大島のほうがよく見えるケースもしばしばあります。
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自動織機によりつくられる多彩な縞大島 @大島紬フェスティバル2018
一方、縞や格子といったシンプルデザインの商品もありますが、そのほとんどが自動織機による縞大島です。段取りさえしてしまえば高速で大量に作ることができるため低コストでの展開が可能です。しかしそこには大島紬ならではの手織りの味はありませんし、とっておきのオシャレ着物が他の誰かと被る可能性があるのは残念です。
廣田紬ではシンプルながらも経緯絣を使った手織りの色大島にこだわっています。シンプルな縞格子の中に一元の十字絣が入った独自のデザイン、一度に沢山の絣を縛らなくても良いため小ロットでの生産が可能です。写真の商品を例に解説します。
こちらの写真の商品、ライトグリーン、ベージュの色糸の組み合わせで格子を作り、交点に十字絣を配置、明るく春らしい柄です。
絣は大島紬らしくしっかりと一元絣で構成、力強い十字絣となっています。十絣以外にも絣糸が使われていて、実は格子の枠の部分には残糸が使われています。それでも十字絣の部分は専用に絣作りをしなければなりません。締機でまとめて絣作りをする大島紬はある程度の生産ロットが必要です。しかし同じ柄の配色替えをすることで、一度の締作業で作られた絣糸を有効利用、柄のバリエーションを増やすことが可能です。
こちらの商品、同柄の配色替えバージョン、十字絣を作る絣糸は共通の絣糸を使っています。他にも淡い同系色の色であれば様々な色にも応用が可能です。
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よく見ると経糸の地糸も多色使いの凝った商品。
そしてこちらは一部の緯絣糸を共通にした商品、設計段階で多少のアレンジを加えるだけで様々なバリエーションを作り出すことができます。
多ロットでの生産が必要な大島紬ですが、過去のように同じ柄が大量に売れる時代ではありません。全国にたくさんの店舗を構える大きな着物チェーン店でない限り、同じ柄を賞味期限内に売り切ることができない時代でもあるのです。廣田紬では同じものをたくさん作ることでコストを抑えた商品ではなく、小ロットからでも製造できるお客様ニーズをくすぐる商品づくりをしています。
他ではなかなか見られない独自の色大島達を以下紹介していきます。
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基本の十字絣、一列に30個ほど絣が並ぶ
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上の商品の絣色を変え細縞を配した商品。
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絣の配置を変えると雰囲気も変わる。
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カラフルな多色の十字絣(冒頭写真の商品)。
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縞を配置した商品。
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細い横段を入れた商品、ほんのアクセント程度の横段がミソ。
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太い横段をいれた商品。よくみるとピッチが一定ではない。
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横段のピッチに変化をつけた商品。
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緯糸の色の変化に応じて絣の色も途中で変え、コントラストを強調した商品。
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経縞、横段を組み合わせた商品。
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網代格子の中にピンクの十字絣を入れた商品。
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横段Ver。
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黄縞を入れたもの。
紹介したものは地糸が白、淡い系統の色でしたが、黒や紺系統の色でも同様の展開が可能です。大島紬の黒系の色はすべてが泥染というわけではなく、化学染料を使い染められているものもあります。泥染の証紙がない場合は化学染料を使ったものと考えてもらってよいでしょう。
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浮かび上がる一元絣、地色は紺と黒の縞の組み合わせ。
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格子の中に浮かび上がる一元絣は星空のよう。
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黒地に映えるカラフルな多色絣。
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網代格子に十字絣、写真ではわかりにくいが実は十字絣は多色のタイプ。
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大市松に染め分けた商品。
以上、シンプル十字絣の色大島を紹介しました。
消費者ニーズをとらえた可愛くシンプルな柄
今回紹介した色大島は従来の絵絣の商品と比べて大変シンプルな柄ですが、正直言ってこちらのほうが消費者ニーズがあると思うのです。大島紬はその長い歴史の中でシンプルな柄から付加価値を求めて複雑で精緻な柄を競うようになりました。作り手には申し訳ないと思いますが、誰がどこで着るのだろうと思われる仰々しい柄も出現しています。精緻な絣柄は大島紬のブランドアイデンティティともいえますが、全面にそれを押し出しすぎるのも考え物です。
例えばこの商品、今まで紹介したどの商品よりも更にシンプルなものです。
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青く長い絣足で格子模様を演出。
一方、こちらは昔ながらの龍郷柄、ごく一般的なタイプの商品です。
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龍郷柄はソテツとハブから意匠化された奄美の伝統柄。
初めて見る人はインパクトのある伝統柄と細かな絣模様で圧倒されるものです。しかし消費者目線でのニーズとして複雑柄を求めているかといえば決してそうではないのです。シンプル柄のほうが着用の機会が多いはずですが、産地では伝統柄にこだわった商品作りがされています。産地独自の龍郷柄ですが方々の織元が作っているため、同じようなデザインの商品がダブつくことになります。一方、シンプルすぎて付加価値がないように思える色大島ですが、逆にこのような類の商品が市場に無いので競争力があるのです。
構造的な需要減の中、今後は複雑で精緻な絣柄の大島紬を揃えることがますます出来なくなります。比較的シンプルなデザインが主流にならざるを得ませんが、デザイン性さえ消費者ニーズを捕えることができれば大島紬が生き残る道はあると思います。
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緯絣の商品、十字絣以外の商品も多数ございます。
人(特に女性)は服を選ぶときに色、柄を第一に優先します。第二に取り扱いやすさや価格、「この大島紬は12マルキだからすごいんだ」という技術的ウンチクは購入動機としては三の次なのです。廣田紬では多様な消費者ニーズを捉える独自の色大島を揃えています。シンプルながらも心ときめく商品との出会いがきっとあることでしょう。
次項ではさらにシンプルな絣糸を使わないタイプを紹介していきます。