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問屋の仕事場から

2018.11.29
キモノの希少性 ~工業製品と工芸製品の違い~

昔は全員が着用していた着物、現在では少々特殊な存在になってしまいました。キモノを着ているだけで趣味の一つとして扱われますし、いい意味でも悪い意味でも人目を引きます。和装市場は縮小、メーカーも体力がなくなり、商品のラインナップも細ってきています。キモノ好きで集まった際にも、おのずと「ユニ被り」状態になる可能性が増しています。今回はキモノの希少性について考えてみます。

俗に云う「ユニ被り」、ユニクロ(に限らず大量生産されたファストファッション)の人気商品を身に着けていると、まったく同じものを着ている人と被ることです。すれ違う人や、電車の中といった限られた空間で目にする場合はまだ許せますが、時間、空間を共有する場合は、かなりお互い気まずい状況に置かれます。

また、それが定番商品の場合、廉価なユニクロ製品であることが周囲にバレる「ユニバレ」という言葉もあります。

ユニクロの場合、1アイテムが100万着というロット単位で生産されます。年間に販売されるフリースは数千万枚にのぼり、統計上大多数の人がユニクロ製品を所持していることになります。ユニクロのベビーユーザーは相当な確率で「ユニ被り」「ユニバレ」にあっているといってよいでしょう。この「ユニ被り」 「ユニバレ」が嫌で、人目につかないインナーウエアしか買わない層もいます。

ユニクロ銀座店、まさかのファストファッションの銀座進出には隔世の感がある。

さて、キモノの場合、高額品故にユニ被りするとかなり深刻な事態が起こります。ユニクロなどの安価なカジュアルウェアの場合はユニ被りはしょうがないという市民権?を得ているので、ある程度笑って済ませることができる風潮が醸成されています。しかしキモノは今やそれを着ること自体が趣味趣向のカテゴリとなってしまいました。せっかく求めたこだわりの逸品が誰かと同じでは面白くありません。

特に地方都市の場合、キモノを着る機会のある人は、限られた人数に限られています。着物を着る必要があるそれなりのお家の奥方、和のお稽古事に通う趣味人、都市の規模が小さくなればなるほど、お互いに顔見知りである可能性も高まります。狭い範囲でのお稽古事や催しに集まる顧客同士で、どちらかが同じキモノや帯を購入していた場合、決して良い思いはしません。気の利く販売店は、一度その地域で売った同じものは決して扱わないといった配慮をしています。

趣味の着物でなくても、成人式で友達とまったく同じ振袖というケースもあるかもしれません。キモノ版「ユニ被り」「ユニバレ」を防ぐには商品の希少性に注目する必要があります。

インクジェットで作られた振袖、大量生産されるため友達と同じというケースも十分ありうる。

 

工業製品と工芸製品の違い

職人の手作業により作られていた着物は、製織、印刷技術の発達により短納期、大量かつ低コストで作ることが可能になっています。本来大変な手間のかかっていた振袖などはインクジェットプリンターによる廉価品が主流になってしまったのは周知の事実です。最終工程の縫製すら、海外で流れ作業で行われます。こうなってしまっては伝統衣裳というのは形だけで、人の手仕事を経ることない工業製品です。作れば作るほど一点あたりのコストが抑えられますから、それらは何百、何千反と同じものが作られます。成人式の会場で見かける色とりどりの振袖、レンタル、購入品にかかわらず、大半がインクジェットの印刷物です。式典の規模が大きい場合、まったく同じ柄を着た人を見つけることは困難ではないでしょう。

帯やお召織といった紋紙を使って作られる商品も事情は似ています。動力織機で織られる帯は一旦パターンをプログラム、紋紙をつくってしまえば同じものを大量に作ることができます。例えばイニシャルコストが500万円かかった帯をトータルで100本作ると一本当たりは5万円、100万円の投資で済んだシンプル帯を20本作っても一本当たりに換算すると同額の5万円です。同じ商品をどれだけ大量に作ることができるかが収益のカギとなりますので、メーカーにとっては少品種で大量生産がありがたいのです。

段取りさえしてしまえば自動で織り上げるジャカード織機、数台を一人でコントロールすることが可能。

ユーザーにとっても高額のイニシャルコストがかかった商品を安く手に入れることができるのであればメリットがあります。しかし同じものが大量に作られてしまっては商品の「ありがたみ」「希少価値」がなくなってしまいます。そしてヒット商品ほどロングセラーとなり、どんどん追加生産されます。どんなに手間のかかった逸品でも大量生産されてしまうと魅力が失せてしまいます。

工業製品と工芸製品の違い、それは手工業的に作られているかどうかの差に表れてきます。

製造設備、体制を増やせば生産量を簡単にコントロール、同じものを容易に再生産できるのが工業製品です。一方、工芸製品は手仕事の作業で作られるため、熟練した職人を増やさないと生産量は増えませんし、そして同じものを再生産することが困難です。

手仕事で作る工芸製品は一人の職人が作ることのできる数に限りがあります。分業や機械の導入によって効率的に量産することも可能ですが、そうすればするほど手仕事の味が失われて魅力がなくなってしまいます。

 

 

こだわりを求める人に

せっかくの着物ですから、他とは違うものを、自分だけのものにこだわりたいものです。例えば大ヒットした某ハイブリッド車、同じ外観が何棟も並ぶ建売の住宅は、人とは違うこだわりの物を求めたい人の選択肢には上がらないでしょう。購入するものが世の中に1000個あるのか、10個しかないのかで希少価値は大きく変わってきます。

例えば友禅染、最近ではインクジェットで印刷された商品でも友禅染と称するようですが、人の手によって絵が描かれた場合、それは唯一無二の一点ものになります。自動織機でたくさん作られた白生地をキャンバスにしていても、後染め加工は自由度が高く、生産ロットの縛りがなく、一点ものを容易に作ることができます。

白生地をキャンバスにして描かれる友禅染、製造ロット縛りがない。

しかし織りで模様を出した着物や、絣で複雑な柄作りをする場合は、一点作りというのは現実的ではありません。紋織り組織の場合は紋紙を作るコストがかかりますし、絣柄の場合は糸を染め分ける手間がかかります。仮にを一点だけしか商品を作らないとなると、すべてのコストがその一点集中し、大変な金額になります。複数ロット作ることで、イニシャルコストが按分されますので織物には採算を考慮した最低注文数(MOQ)が原則として存在します。

従来型のジャカード織機の紋紙、近年は電子化が進んだため物理的な保管コストは大きく下がった。

縮小する需要の中、沢山作ってもそうそう売れるものでありません。たくさんの在庫を抱えるわけにはいかず、小ロット化が課題です。柄やメーカーの方針にもよりますが、西陣織は手機でも6反~、大島紬は8反~といったところまで減ってきています。自動織機で作る商品は更に多く、数十、数百といったロットになります。

せっかく出会えたこだわりの商品がそれなりに量産され、世の中に自分と同じものを着ている人がいると考えると、残念な気がします。作れば作るほど商品の価格は下がりますが、希少価値も同時になくなっていきます。例えば複雑で絢爛豪華な素晴らしいデザインの西陣織の帯、大変なイニシャルコストが発生していますが、ヒット商品となった場合、追加でどんどん作ることができます。すでに減価償却が完了している場合、更にリーズナブルな値付けが可能です。動力によるジャカード織機でつくられた織物の場合、豪華絢爛さや品質が必ずしも価格に反映されないのです。

定番の男物大島紬亀甲柄、着尺と羽織のアンサンブル(一疋)になっている。

また、大島紬の亀甲柄は定番ともいえ、特に着物初心者の男性向けの最初の一着としてお薦めなものです。他の柄に比べ、かかる手間の割にはリーズナブルな価格で流通していますし、細かな亀甲柄は素人ウケします。ひと昔前は婚姻時に嫁入り側が用意するオシャレ着物の定番で、切手のような存在でした。しかしあまりにも流通しすぎたために、着物を着なれてくると敬遠される場面も出てきています。ただでさえ男性の着物人口は少なく、キモノの集いなどで「ど定番」ともいえる亀甲柄では誰かと被る確率が相当なものになります。

価格がリーズナブルな理由は市場に大量に流通している柄だからです。とてもお買い得なものと断言できますが、こだわりを求める方にはおススメすることはできません。

同じものが1~2点しか作られないない草木染紬と丹波布帯、他にない希少性という付加価値をもつ。

希少性も考慮したこだわりの逸品を求めたい場合は、その商品がどのような背景で作られたものかを考えることが必要です。織物でも小さな個人工房、小規模な織元が作ったものであれば一点ものもあるでしょうし、こだわって別誂えされた商品であれば生産数はごく限られたものになります。こだわり逸品が世の中に10点あるのと、1点しかないのでは所有する喜びは段違いです。

人の手仕事によって作られた味わい深い工芸製品、お求めいただく際はその希少性にも着目してもらいたいと思います。

 

16反(8疋)を基準に絣作りが行われる大島紬、近年は小ロット化(柄の単純化)も進んでいる。

染つぶしで柄が作られる絵羽模様の大島紬、自由度が高いため、1反から製作が可能。

型染めの帯、型紙さえ作ってしまえば比較的容易に量産が可能。配色を替えることで希少価値を維持する。

結城紬の飛び柄、4反ロットが基本であったが、在庫リスクを減らすために2反ロットのケースもある。

手織りの首里花倉織。もし動力織機で作った場合、希少価値とともに手織りの味の魅力がなくなってしまう。

異なる100柄が組み合わさった着尺、希少性という観点では唯一無二。