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問屋の仕事場から

2018.11.23
赤ちゃん名前ランキング 「紬」が急上昇 → 2021年は1位に!!

赤ちゃんの名前ランキング、ここ数年で「紬」「つむぎ」の人気が急上昇、上位ポジションに食い込んでくるようになりました。特に女の子の名前として人気で、さまざまな願いが込められているようです。今回はこの「紬」から連想される願い、想いについて考察してみます。

紬(糸へん+由)、シンプルな漢字ですが読み方を知らない人がけっこういます。画数が少なく、シンプルですが漢字検定協会によれば準一級の難易度に位置付けられています。一応は常用漢字であるものの、義務教育過程で習うものではありません。

また若い人にとっては身近な素材でもなく、その目新しさが逆に新鮮に映っているようです。

出展 https://mojinavi.com/post/%E7%B4%AC

別項「紬とは」で紬の定義的なことを解説していますが、真綿から採られる紬は現在では大変な高級品です。屑繭や副産物から作られた劣った物という概念は完全に払拭されたといってよいでしょう。

味わいのある紬、茜染の草木染め。

紬から連想されるポジティブイメージを箇条書きにしてみました。

 

・丈夫

繊細なフォーマル向けの絹織物とは違い、太い糸を使う紬織物は丈夫です。織り方も摩擦にも強い平織の組織で織られており、普段使いを意識した耐久性の強い仕上がりになっています。我が子に丈夫に育ってほしい、健康第一という観点からは素晴らしいイメージであると言えます。

・倹約

紬のその成り立ちは副産物である屑繭などを集めて作ったことにあります。その副産物が幾多の歴史を経て芸術とも呼べる品に昇華したのが現在の紬です。子供がいつまでも倹約の精神を持ち、質素でも文化的に優れた立派な人間になってほしいという想いが伝われば素晴らしいことです。

・味わい深い

自動機械で精密に作られた絹織物は一見キレイに見えますが、画一的で味気のない物でもあります。人の手仕事によってつくられた紬は味い深く、表情豊かな作り手の温もりが伝わってきます。着れば着るほど愛着もあいまって体に馴染むのが紬です。表面的なものではなく、長く付き合うほどに親しみを感じさせるような大人に育ってほしいという、深い人間性を備えたいものです。

・粋

パッと見て地味な紬は素人目に見ると安価な布にしか見えないかもしれません。しかしどんなハイブランドの服より生地が高価で、単位面積当たりでこれ以上コストのかかっている布地はありません。さりげなくシンプルに着こなすことできる粋なセンスは、人生においてもより良い人格形成に役立ってくれることでしょう。

・真面目で堅実

紬の製造過程はコツコツとした根気の必要な工程がたくさんあります。またフォーマル染物のような派手さはなく、真面目で堅実な柄行きです。そして裏と表が同じ生地ですので裏表のない正直な性格にも繋がるのではないでしょうか。

・伝統

日本各地では古来よりそれぞれの歴史、風土を背景にした紬織物が作られてきました。一世紀以上の歴史を持つものは国の伝統的工芸品に、特に古い技法を守って作られる結城紬や久米島紬などは国の重要無形文化財に指定されているほどです。次世代に伝統をつむいでゆく、子孫繁栄を含め、お家を末永く守るという意味を込めることができるのではないでしょうか。

 

地味にみえても超がつくほどの高級品の結城紬、単位面積当たりのコストは世界一といってもよい。

 

こうみていくと「紬」という字はいいことずくめです。

人名にたくさん採用されることで、これまで一般の人には見向きもされなかった「紬」に注目が集まり、興味関心を持ってもらえるのはありがたいことです。そして名前の由来をきっかけに近い将来に彼、彼女らが紬の着物に袖を通す、紬の素材に親しむことになれば素晴らしいことです。

先染めの紬、糸を先に染めて織り上げることから強い生地となる。芯の強い子に育って欲しいものです。

名前には時代ごとの流行がありますが、紬の価値が見直されているのかもしれません。紬はもはや屑繭からつくられた副産物という扱いではありません。一生どころか、没後も刻まれることになる名前、紬と名付けられた人の活躍が楽しみです。

 

2021年 11月追記

和装の世界では年を追うごとに生産が落ち込む「紬」、ついに赤ちゃんの命名で「紬」が一位になったというニュースがありました。

昨年8位からの大躍進です。実は紬だけではなく、9位「紬希」、75位「紬生」という関連した命名もランクインしています。

ちなみに紬は0.58%、「紬希」は0.33%、「紬生」は0.12%、平仮名の「つむぎ」を合計すれば新生児の1%以上に達しています。2021年の新生児84万人の半分が女子と仮定して、4000人以上の「紬」に関連する女性が誕生していることになります。

※男子も0.1%が紬と命名されています。

糸偏の文字だけで言えば採用率が高めでしたが、紬がまさかの1位になるとは驚きで、「紬」と名付けられた未来のユーザーが紬織物に関心を寄せることは必至です。

仮に紬ちゃんブームが続き定番化、数十年の間に大量の紬ちゃんが誕生していけば、数十万人(紬の購買層となりうる30歳〜70歳)もの「紬」さんが存在していることになります。現在の着物市場ではコアな着物ファンが3万人程度と言われていますから、この数字は恐ろしい潜在顧客となりうる数字です。

紬生地を拡大したもの、全て太さの異なるまばらな糸で構成されている。

皮算用ではありますが、令和の新生児たちが物心つくようになった頃、日本にはまだこんなに素晴らしい布文化が残っていると、少しでも伝えることができれば望外です。

 

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