男性の礼装として欠かせない袴、まずシワやオレを残さないために…
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問屋の仕事場から
- 2020.04.11
- 石摺り紬の兵児帯
蔵の整理をしていると珍しい紬の兵児帯が出てきました。
ラフに締めることのできる兵児帯、男性や子供向けのオシャレ帯ですが最近では女性物の展開もみられるようになりました。絞りの兵児帯がポピュラーですが、廣田紬では過去に大変凝った紬の兵児帯を作っていました。
紬の兵児帯は伸び縮みせず、大変締まり良いものです。石摺りと呼ばれる技法で作られたこの兵児帯は今ではもう作ることができません。生地は結城紬にも使われる無撚糸で織り上げた諸紬、50センチ(普通の1.4倍)以上の幅で作られており、このような広い筬がもうないのです。
経糸、緯糸に100%紬糸を使っている諸紬だけでも価値がありますが、この紬は石摺りと呼ばれる技法で染められています。生地表面をよくみると、節糸の部分が白っぽいことがわかります。
染め技法の一つで、白生地を浸染(染料に生地を浸して無地に染めること)した後に硬いものでこすると、節の部分の色が剥げ落ちて白っぽくなります。擦られていないところと比較すると濃淡が生まれ、独特の味を生み出します。デニム生地でよく使われているダメージ加工の和装版(こちらが本家かもしれませんが)ともいえるでしょう。
生地を拡大してみます。
織り込まれた紬の節の部分の繊維が荒れて、色が白っぽくなっています。凸になっている箇所がその突出具合に応じて濃淡になっていて、味わいのある生地が生まれているのです。
この兵児帯は帯端三寸ほどは無加工になっていて、デザインのこだわりとなっています。
糸を先に染めてから織る先染め無地の場合、糸の芯まで染料が浸透しているためこの味わいは出せません。一度白生地を織って、染めて、摺り加工する、このようなコストのかかる生地は現在ではなかなか作られることはなくなってしまいました。
経糸、緯糸ともに100%紬糸である諸紬だからこそここまで味が出るのであって、中途半端な生地では成し得ない生地風です。
今回の場合は節のある紬の生地でしたが、全く凸凹のない平坦な生地の下に石や木目を置いて擦ると、その模様が生地に転写されるという効果があり、京友禅の世界では様々な石摺り技法に発展しています。
さすが無撚糸を使った生地、紬のお手本のような風合い、ふわっとしていてストールとして使いたくなるほどの質感に仕上がっています。
この商品が作られてたのは20年数年ほど前、平成に入り着物人口に陰りが見えていたものの、このような洒落た贅沢をする男性がまだ一定数いたのです。
しかし、かしこまった場所では使えない兵児帯自体が希少な存在となってしまいました。現在では男性のものではなく、女性の浴衣向けのラフな帯として定着しているようです。
いつかまた作りたい粋な品、今後のモノづくりの刺激になる良い発見でした。
※今回紹介のものは参考品で、非売品となります。