蔵の整理をしていると珍しい紬の兵児帯が出てきました。 ラフに…
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問屋の仕事場から
- 2020.11.09
- 男の日常着、工芸織物でこそ作務衣のススメ
廣田紬で扱う小幅の織物(38〜40cm)は着物に仕立てることを前提に作られているます。しかし着物向けだけではなく、作務衣(さむえ)に仕立てられる方もいらっしゃいます。
お坊さんの作業着のイメージが強い作務衣ですが、和に関連する仕事(和菓子の職人、旅館の中居、陶芸作家等)に従事する方も着用しています。着物とは違い帯を用いないため、洋服の延長線上で和服の雰囲気を楽しむことができます。ラフに着こなせるうえ着脱のしやすさからパジャマがわり、入院着としても活躍しています。
男性の着物人口の少なさを考えると、製造される数量ベースでは、着物の数を作務衣(甚平含)が上回っていることは疑いの余地はないでしょう。
※甚平は作務衣の袖を短くして半ズボンとした夏向きのスタイルで、子供の浴衣がわりとして人気です。
帯を用いず、ズボンというセパレートタイプを導入したことで普段着物にふれない人でも違和感なく着脱することができます。着物はカッコ良いけども、今一歩踏み出せない、和の雰囲気を気軽に楽しみたいという方にはうってつけのスタイルなのです。
そんな和の装いニーズに応えて、いくつか作務衣専門店があるようです。着物専門店に比べればマイナーな存在ですが、ジワジワとファンを増やしています。
着物の場合は反物を選んでから、採寸、仕立てが必要です。さらには襦袢や帯、草履なども用意しなければいけません。素人が急に思い立って着物を作るのはハードルが高く、今時の若者が昔ながらの商売をしている呉服店に足を運ぶとは思えません。
一方、仕立て上がった状態で販売されている作務衣は、注文すれば届いたその日から着ることが可能です。価格も数千円〜数万円と、着物に比べてお手頃感のある商品が多いのが特徴です。取り回しも洋服感覚と同じですし、僧侶の作業着としてだけでなく、幅広い層から支持を得ているのに納得できます。
心踊る生地が見当たらないプレタ作務衣
ネットショッピングでワンクリックで購入できる作務衣ですが、残念なことに着物に使われている高級な工芸織物を使った商品は皆無です。結城紬や黄八丈の作務衣とは言わないまでも、一般の上質な紬や上布を使った作務衣が販売されているのは見たことがありません。
理由は販売店が高額な在庫リスクを負担することができないからです。
例えば着物の場合、反物を1点仕入れておくだけで体格に合わせて、仕立ての自由が利きます。作務衣の場合は仕立て上がって販売されていますので、購入者の体格に合わせたサイズを複数用意しなければいけません。仮にS、M、L 3種類だけだとしても、在庫リスクは3倍、カラーバリエーションが必要な場合は更にその数倍になります。
仕立て上りの作務衣は、安い生地を使い、ミシンで多くの数をまとめて仕立てることで製品コストを落とさざるを得ないのです。
伝統工芸織物で作る作務衣
仕立て上りの作務衣を通販で購入されていた場合は、本当に上質な生地に巡り会うことはありませんし、生地の良さを知る機会もありません。この国にはせっかく魅力的な生地がたくさんあるのですから、普段使いの作務衣にそれらの生地を使いたいというニーズがあるはずです。
実は全ての着物用の反物は、作務衣を1着仕立てることが可能です。仕立て上がりの規格品にくらべて時間、コストはかかりますが、自分だけの結城紬や大島紬の作務衣を誂えることができるのです。
便利な世の中で、反物を送付して作務衣を仕立ててくれる専門店もあります。
高級生地を作務衣に仕立てるのは勿体ないという意見も聞こえてきそうですが、着る機会の少ない(着るのが億劫な)着物に仕立ててしまうより良いと思います。さらに着用しなくなった着物を解いて作務衣に仕立て替えることも可能です。
※女性の着物からは一着分の作務衣に仕立て替えることが十分可能ですが、男性の場合は要尺に注意が必要です。
和のテイストを気兼ねなく楽しむことができる作務衣、愛おしい手仕事の布に包まれる毎日を気軽に過ごすことが可能です。是非お気に入りの布で作務衣ライフを過ごしてみてください。