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問屋の仕事場から

2020.12.03
ゾンビに絞め上げられる着物業界 〜マインド、製品アップデートのススメ〜

古着への抵抗がなくなった世代が増え、百貨店においてもリサイクル着物が堂々と販売される時代となりました。

桁が一つも二つも違う価格で憧れの着物が手に入るのは消費者にとってはたいへん嬉しいことです。一方でその存在が着物産地、従来型の和装産業の首を絞めていることも事実です。なぜこのような状況が生まれたか背景を模索してみます。

洋服の世界においては共存している古着業界、着物の世界では少し異なる状況に陥っています。

着物はその形が決まっているため、陳腐化しにくく、長く使うことのできる大変長持ち(今風にいえばエシカル)する被服です。

→参考記事

エコな着物? 倹約の精神が生み出した在庫問題

大変高価な着物ですが、リセールとなると価格は二束三文になってしまいます。100万円した振袖が1万円でも買い手が付かないケースも往々にしてあります。リセール価格のことを考えると正価で購入するのはバカバカしくなってしまいますが、フォーマル着物(染物)は加工の幅がピンからキリまであり、柄を一目見ただけで素人が割安と判別するのは困難です。

また、おめでたい晴れ着(その逆の喪服なども)を中古品で揃えることに忌避感がありましたが、所得水準の低下によりどうしても中古品を選ばさるを得ない層も増えています。

オークションサイトで格安で販売される振袖。素人が加工の良し悪しを見極めるのは困難。

着物は洋服の洋服のように大量生産されず、素人が価格を吟味、比較しにくい性質のアイテムです。しかし伝統的工芸品の織物など、規格や相場がある程度決まっている商品の場合、ある程度慣れたユーザーは価格帯を比較することが可能です。オークションサイトでは様々な商品を格安で見ることができます。

例えば大島紬は年間に数十万反と作られた時代長く続き、ユーザーのタンス在庫もその数だけ存在していることになります。これらが買取業者によって悲しいくらい安価に調達された挙句、仕立て上がった状態で数千円〜数万円で販売される顛末です。場合によっては着物代が仕立て代より安いケースもあり、消費者にとっては大変ありがたい環境になっています。

驚くべき価格で販売されている大島紬、消費者にとっては最高の環境であるが、、、

使わなくなった着物を手軽に始末することができて、その先では安価で販売、消費者も高音の花で憧れの着物が手に入る。

売り手よし、買い手よし、、、、、しかしこれが産地をはじめとする問屋、販売店、正規の流通サイドにとっては非常に悩ましい問題となっています。

 

格安中古着物がもたらす弊害

呉服を祖業とする百貨店、高級感がキーワードの一つで、陳列される商品もそれなりのプライドのあるものが中心でした。百貨店と直接取引口座があることは出入り業者にとって誇らしい時代がありました。呉服においても取引する問屋が厳選され、一流の業者でしか取引が許されませんでした。

在りし日の徳島そごう、県庁所在地に百貨店自体がなくなってしまう時代に。

呉服市場の減衰と共に売り場は高階床へ押しやられたものの、祖業である呉服部門は聖域と見なされ整理されることはありません。しかし現在の百貨店は場所貸業ですから、売り上げをしっかりと確保するテナント、催事が優先されます。背に腹は変えられず、いつの間にか中古着物を扱う業者まで出入りするようになりました。

呉服の特選品売り場の横で、中古着物の催事が行われる事態も発生しています。数十万円という値札がつけられた売り場の横に、同等品(しかも仕立て済)が10分の1以下で販売されているのです。中古着物を忌避しているお客さんは購入することはありませんが、良い気持ちがしないことは確かでしょう。

リサイクル着物の数々、中古品への抵抗はなくなりつつある。

オークションやフリマアプリなどの個人間取引が普及するに従い、若い方を中心として中古品への抵抗が減ってきたのも事実です。なかなか手の届かない憧れの工芸織物が格安で購入することができるのですから、呉服屋さんでマトモな価格で購入することがバカらしくなってしまいます。

ある機屋の社長さんとお話していて、大変な苦労をかけて作られた商品が二束三文で売られている現状を嘆かれていたのですが、恨み節のように一言。。。

「着物は特別なもの。その着物にはどんな怨念が憑いているかわからない」

やりきれない現状を、意味深な一言で切り捨てておられました。

着物は着る人の特別な喜怒哀楽と共にある

レンタル着物の項においては、着物の魅力に気づいてもらえるエントリーとなるきっかけになるので、形がどうであれ歓迎すべきことだと記しました。安価なリサイクル着物においても、今まで着物が手に届きにくい(従来の呉服屋に恐れ多くて入れない)と思っていた人への気軽なエントリーとなっている点は良いことです。

しかし現状を考えると従来の流通全体を破壊してしまいます。さらに今年は中古着物最大手の企業が破綻している事実からして、売り手もメリットをしっかり享受できているかどうか、かなり怪しい状況になっています。

 

なし崩し的な解決策?

需要と供給の市場原理に基づいた価格設定がされているのですから、恨み節を言うわけにはゆきません。産地、既存流通業者にとって解決策はあるのでしょうか。

参考記事 着物は危険!?アゾ規制の問題 

高度成長期に大量供給されてタンスに眠っている着物達、その中にはしつけ糸がついたまま一度も袖を通さなかった商品も数多くあります。それら無数の中古着物達と勝負しなければいけない業界に望みはあるのでしょうか。現在では技術的、コストの観点から作ることができない逸品も散見されるようになりました。新品VS中古という構図の中で、価格はともかく品質でも劣るとなった場合、消費者はどちらになびくか、自明の理です。

現代ではもう作ることが叶わない結城紬、過去に作られた商品の方が品質が良い例も。

幸い絹は劣化しますので、鮮度というものが必ずあります。長期間にわたって放置された絹織物は服地としての張力に耐えきれず裂けてしまいます。大量に着物が供給されたのは平成の初頭まで、その後は急激な減産が続き、現在では一部の需給バランスが逆転しているケースもあります。時間とともに既存業界を大きく驚していた昭和のゾンビ商品達は概ね枯れてしまうことでしょう。

絹は時とともに必ず劣化します。写真は極端な例ですが100年前の大島紬。

中古着物という商売は在庫量と回転数がモノをいいますので、常に大量に仕入れ続けなければ成り立ちません。生命線である仕入れがストップしてしまえば昨今勃興した大規模な買取業者は雲散霧消することでしょう。

時に解決を任せるのは楽ですが、厳しい時代が続くことは変わりありません。耐えきれず消滅してしまう産地、問屋、販売業者が続くのは確実です。令和時代が終わった時、どのような形で着物市場が残っているか想像もつきません。

既存の流通サイドを締め上げるゾンビたち、しかしそれらの状況を生み出したのは、いつまでも伝統にしがみついていた流通サイドにも責任にもあります。

 

アップデートが必須の伝統工芸織物

中古着物が既存流通を脅かしているのは、着物自体が陳腐化しにくい商材であることが大きな原因ですが、製造、流通サイドが商品をアップデートしてこなかったことにも一因があります。

中でも国が指定する伝統的工芸品の指定を得た場合、素材、製造技法、製造場所に大きな縛りが生まれます。各種公的な補助を頼るあまり、どうしても進化を是としない風潮が生まれます。さらに後継者不足で今まで可能であった加工ができなくなるなど、技術が退化してすらいるのが事実です。こうなってしまっては、昭和に作られたものが、令和の時代に作られたものより品質(鮮度を別にして)が良いということが往々にしておこり、負のスパイラルに突入するのです。

最近証紙が切り替わった置賜紬(写真は旧品)、商品の作られた時代がわかる人には分かるようになった。

伝統的工芸品への指定は延命措置と言っても過言ではありません。指定条件に十分当てはまる、または組合に加盟せず自助努力で生産活動を続けるところは、アップデートを重ねてさらに魅力的な商品作りをしています。

「伝統」という重荷に縛られることのない自由な物作り、個人作家さんを中心に現代の市場環境、トレンドに合わせた柔軟な物作りがなされています。実際に公的な扶助を受けない独自路線の工房の方が元気な印象すらあります。

廣田紬オリジナルの久米島紬、伝統に縛られない斬新な色使い。

着物は形に変化がないので、手堅い保守的なデザインを作りつづけるのも正攻法です。しかし伝統を守り、愚直に物作りを続けていては古き良き中古着物達には勝てません。

毎年似たような同じ柄を作り続けて、思考停止に陥いる戦略なき着物業界、古き良きゾンビ商品にやられてしまうのは当然です。中古着物を陳腐化させるには技術の進化、デザインの研鑽が欠かせません。古い思考のまま続けている業界自体がゾンビと言われかねないないのです。


※しつけ糸付の未使用の商品がオークションに安価に出回っている事実、無理な購入に至ったツケと言えますが、真面目な呉服屋までもがあおりを食らっているのは悲しいことです

中古着物VS新品という二項対立、ゾンビのせいで商品が売れないと嘆いている場合ではなく、常に前にアップデートしていく姿勢が大切です。

織物の分野においても伝統工芸というレッテルを捨て、現代のニーズに果敢に挑戦する商品作りが求められています。温故知新、廣田紬では常に新しいトレンドを模索、伝統に頼り切らない商品づくり、マーケティングを進めてまいります。

伝統的工芸品である信州紬のレッテルを捨てた下井紬

 

 

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