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問屋の仕事場から
- 2019.09.18
- 漁網が着物に!?幻のひげ紬の白生地
ひげ紬とは短い糸が生地から飛び出している「髭のようなモシャモシャ」感が特徴の生地のことです。多くは男性向けの羽織用途で先染めの濃い地の生地ですが、今回は白生地の紹介です。
髭のような糸が飛び出るヒゲ紬、もともとは古い漁網などの廃物を解いて織り込んだ際に、意図しない結び目が飛び出しているような粗野なものでした。正に自家用の野良着として使われていたもので、網織紬、網糸織りとも呼ばれていました。
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糸の端が飛び出した結び糸を使用していることから、「むすび紬」などの別称も。
琵琶湖で使われていた漁網は昔は絹糸が使われており、鯉や鮒など琵琶湖に生息する様々な魚のサイズに合わせて作られていました。それらを解いて糸として使った場合、結び方や飛び出る糸の長さや太さの異なるとても趣のある生地だったに違いありません。
現在ではオリジナルの網を解いて使うわけには行かず、意図的に加工された網から髭糸を作り織り込みむことで作られています。あまり長着に使われることはなく、一昔前は男性向けの羽織で流行ったことがありました。
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男性の羽織り向けの生地、ヒゲ紬は静かなブームとなった時代があった。
網を解いて作ったヒゲ糸は一か所から2本の糸が左右に飛び出してるのですが、網目が細かければ細かいほど沢山ヒゲが出ることになります。ヒゲ糸をどのようにカットするかが味の出しどころです。
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緯糸に織り込まれる網糸、網をカットすると2方向にカットした糸が飛び出る。
ヒゲ糸は製織時に組織に織り込まれてしまうこともあり、そこはループしてしまいます。ループした箇所がカットされていない場合はそのまま生地表面に残ることもあります。
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髭紬の生地表面、織り込まれてループしたままの糸が残る。
髭紬は先染めで織られることがほとんどですが、白生地であれば任意の色に後から染め上げることが可能です。早速髭紬の白生地を見ていきましょう。
生地表面を見てみると、緯糸に紬糸がふんだんに使われていて、生地から出る糸が短く、量も多いことがわかります。一般的な髭紬は緯糸10本に一本程度髭糸が入っていれば、とりあえずそれっぽさを出すことができますが、こちらの髭紬は網のピッチ自体が細かく混率も高いので「髭」の濃さでは随一といえるでしょう。
組織を拡大してみました。
網目の交点から飛び出る糸が織り込まれ、ランダムに暴れて飛び出ているのがわかります。
このような上質な網糸はもう作られていませんので、この白生地は幻と言える貴重な生地となってしまいました。
そして長い髭はバランスが悪いので短めにカット、しっかりと整えてあります。東北の白鳥紬を彷彿とさせる出来栄えです。製造は秦荘紬や近江上布の織元で知られる川口織物、上質な紬糸と相まって単に紬生地としても素晴らしい風合いに仕上がっています。

板締め絣の白鷹紬のように側面はフサフサ。髭紬糸の昆率の高さがわかる。
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先染めの髭紬(東北産)との比較、髭の濃さが大きく異なる。
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網糸が入っていない織り端(左)と網糸入り(右)の比較。
後染めする場合は無地がベストですが、当然友禅や刺繍など好きな加工を施すことができます。加工の自由度の高さが魅力の髭紬の白生地、その極上の風合いにも注目です。
※本商品は濃密な網糸の再生産ができなくなってしまい、ごく少量の在庫のみとなっております