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問屋の仕事場から

2019.08.08
手頃な越後上布も作られています

越後上布といえば最高級の麻織物として知られています。生産数の少なさと、その高級車が買えるほどの価格から多くの人にとっては手が届かない織物です。

一方、越後上布の縮織バージョンである小千谷縮、こちらは夏のカジュアル着物として広く親しまれています。越後上布と小千谷縮、根っこのところでは同系列の織物なのですが、越後上布は高級品、小千谷縮は廉価品というイメージがなんとなく出来上がっています。これは両者の生産数の違いによるもので、紡績糸を使い自動織機で作られた廉価なタイプの小千谷縮が大量に流通しているからです。

ベージュの反物

高速で大量に織り上げられる小千谷ちぢみ、コストと品質の両立してこそ消費者に支持される。

非縮織(平織)である越後上布は自動織機で大量生産されることは少なく、その流通数は多くありません。重要無形文化財技法の商品がそれなりの数(20~30反/年)で作られ、それらがクローズアップされることで越後上布は高額品であるというイメージが出来上がっているのです。一方の小千谷縮(重文技法品)は2~3反/年と極端に少なく、取り上げられること自体稀です。

高級車が買えるほどの越後上布、100%手績み糸を使い地機で織ることを考えると妥当な金額。

重文技法の越後上布があまりにも高価なことから手績の苧麻糸の混率を下げた古代越後上布もつくられていますが、それも気軽に買える価格帯ではありません。そこで紡績糸を使うことで劇的なコストダウンを実現した商品があります。今回はそれら「ノーマル」越後上布について紹介します。

 

こちらの十字絣が敷き詰められた商品、苧麻の紡績糸100%をつかった越後上布です。

100%紡績糸を使うことで価格は一気に10分の1程度まで下がります。糸を一から作るか、海外で効率的に作られた糸を買ってくるか、調達に費やす手間は格段に違ってくるからです。人が苧麻を栽培し、裂き、繋いで糸にした手績みの苧麻糸は作るのに途方もない時間を要しますが、紡績糸は糸屋さんから必要なスペックの糸を必要な分だけ購入すればよいのです。コストの大半を占める糸代、紡績糸を使うことで商品小売価格に占める糸代の割合は無視できるほど圧縮できるのです。

紡績糸を使っているとはいえ、絣作りや製織は従来の手法です。この商品の十絣は経絣1本に緯絣2本でキの字にしているタイプですが、多少の絣のズレが布の表情を豊かにしています。ランダムな強さで緯糸打ち込まれた織の風合いからは手仕事の味がしっかりと伝わってきます。手績み糸を使った商品にある迫力、布が持つパワーは圧倒的なものがありますが、普段着で使う分には紡績糸を使ったタイプで必要十分といえるでしょう。

生地の表面

絣ものだけでなく無地のタイプも作られています。これらは別誂えで任意の色を選んでいただきお作りすることも可能です。

 

同じ紡績糸を使う織物に、能登上布があり価格的にもライバルになります。越後上布は複数の織元があるので一概に能登上布との単純な比較はできませんが、ツルッとした能登上布の風合いと比べて表面に少し凸凹感があります。シワや折れに対する回復性も能登上布より幾分かよく、メンテナンス性もよい素直な生地に仕上がっています。

亀甲絣の2反の織物

亀甲絣のタイプ、全面に絣が入った織物であれば少々のシワならば目立たない。

その他にも力織機で織られた越後上布が作られています。もっともリーズナブルなタイプですが後染め用の白生地としても需要があります。もっとも作られている数は少なく、同じ麻の平織物としては襦袢のほうが圧倒的に多い状況です。シワがどうしても目立ってしまう麻の平織物は、フォーマルの場ではどうしても正絹の織物に分がありますし、カジュアル用途ですと最初からシワ加工がされている小千谷縮が人気です。一般的に麻の平織物の取り扱い(販売面でも)は難しいといえるでしょう。

2反の反物

越後上布(下) と能登上布(上) の比較、素材は同じだが風合いも両社は異なる。

日本の伝統的な麻の平織物といえば越後上布や宮古上布にまずスポットが当たります。手績みの糸を使った麻織物は現実的でない価格になってしまい、消費者離れをおこしてしまいます。古代越後上布宮古苧麻織といった廉価品の展開もされていますが、それでも多くの人が気軽に買えるものではありません。麻の平織物自体が特殊な物になってしまった昨今、紡績糸で作られる能登上布はリーズナブルな価格(比較的ですが)で確固たるポジションを確立するようになりました。

まだ複数軒が活発に稼働している塩沢織物工業協同組合、絹織物の生産が盛んに行われていますがそのルーツは麻織物です。麻織物を作る技術は日本一なのですから、越後上布(紡績糸)VS能登上布という構図に至るくらいに越後上布も裾野を広げてもらいたいものです。

 

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