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問屋の仕事場から

2019.08.13
どういったお店で紬(着物)を買うべきか

越後屋の様子

趣味の着物である紬、どのような呉服屋さんで求めればよいのでしょうか。世の中には様々な形態のお店がありますが、紬専門問屋の立場から解説していきます。

廣田紬はオリジナルのもの作りを行っているメーカー問屋ですが、前売り問屋という販売店の直前にいる立場でもあります。百貨店から町の呉服屋さん、個人営業の呉服商まで幅広い販売チャネルを有しており、時には販売応援で売り場、販売の前線にも立つことがあります。紬を買うべき理想的なお店像、問屋の立場からみていきます。

 

紬が和装市場に占める割合は一割以下

和装市場(3000億円弱)の内訳は振袖や訪問着などのフォーマル物が60%、浴衣や小物類で30%となり、残りの10%にオシャレ着物(小紋や紬など)が含まれます。もはやその他の扱いであるオシャレ着物、その中でも手仕事による伝統的な織物に至っては数十億円程度と推察されます。

きちんとした統計がないので正確なものではありませんが、以下は和装市場に占めるアイテム別円グラフ、かなりざっくりとしたイメージですが大方間違いではありません。

円グラフ

和装市場においては振袖などのフォーマル物が主で、紬などのおしゃれ着物は「その他」に分類される。

紬は全体のボリュームからするとわずかなものなので、多くのお店では売り上げの柱と成り得ないことがわかります。

一般の呉服店にとって売り上げの柱はフォーマル着物ですから「紬などの特殊品」はお客さんの注文があれば都度商品を用意することになります。普段から取り扱っているものではありませんので、詳しい商品説明をすることは困難でしょう。紬は着物を買いなれた「着物通」な方が求められますので、下手をすると販売員よりお客さんのほうが詳しいなんてことも往々に発生します。

商品に詳しい信頼できる店主、スタッフを通じて購入することがベストなのですが、なかなかそうはいかないのが実情です。業界全体としては「その他」の扱いの紬、消費者はどのようなお店で求めるべきなのでしょうか。

 

紬を買うべき呉服屋さんはオシャレ着の専門店

紬を買うべきお店、それは紬に詳しい店主がいるお店です。多くの呉服屋さんは先の理由からオシャレ物の取り扱いがほとんどなく、商品がない、知識がないとなっては消費者の要求に満足に答えることはできません。初めての着物(振袖)をそこで買ったからといって、振袖に注力している形態のお店で紬についてもお世話になるべきではありません。

呉服店の中でも振袖特化型店舗はビジネスモデルが完全に違う、別の業態と考えてよい。

着物の中でも紬はニッチな部類ですが、わざわざ紬などのオシャレ着物に詳しいお店も少なからず存在します。専門店と呼ばれる呉服屋さんで、オシャレ着物のセレクトショップといってよいでしょう。店主の意向が強く反映されたお店で、長らく地域で信頼されてきたお店が多いです。一般の呉服店では見ることのできないこだわりの品が沢山取り揃えてあり、店主をはじめ店のスタッフも紬に詳しく、予算、TPOに応じて様々な提案をしてくれることでしょう。

着物がならぶ

紬はオシャレ着物に強い専門店で買うべき。 ※写真はイメージ 弊社展示会 

そういったお店は最適な仕入れルート(私たちのような紬専門問屋や産地の問屋、織元)を持っていて、新鮮な商品をいち早く、しっかりした知識の元にお客さんに提案することができます。店主、店員さんが自ら産地へ出向き、モノづくりの勉強をしっかりされています。

調達先への価格交渉力も強く、結果として商品価格もリーズナブルなものになります。紬を初めて買うといった方にでも予算に応じた的確なアドバイスをしてれるでしょう。

老舗だったり構えがしっかりとした呉服店といえば敷居が高そう、、、さぞ高い買い物をする結果になると思われるかもしれません。しかしチェーン店の価格に比べて良心的なお店が多く、相場からかけ離れた値付けや人の顔をみて価格が跳ね上がる心配もありません。最初は少し勇気がいるかもしれませんが、一番良いお付き合いができるのは案外昔ながらの呉服専門店なのです。

 

使いようによっては百貨店も選択肢に

それでもやはり気軽に入れるお店で紬を見たいという場合、百貨店の呉服売り場をお勧めします。初めて紬を買うという方はたくさんの品揃えの中からいろいろと吟味して自分のお気に入りの品を求めたいものです。大都市の旗艦店は大きな売り場面積が確保してあり、普段着の着物についてもそれなりのボリュームがあります。上場企業である百貨店はコンプライアンスを重視、相場からかけ離れた価格表記や無理な押し売りもなく、何かあったときにも返品、返金を含めて丁寧に対応してくれます。誰でも気軽に入りやすい(売り場から離脱しやすい)百貨店はとりあえず「紬とはどのようなものか」と見に行くのに最適な場所なのです。

ひゃっかてんの

江戸初期の呉服店「越後屋」が発祥の三越デパート。

鉄道系の百貨店を除くほとんどの百貨店は呉服が祖業であり、呉服担当の社員はエリートコースとして出世が約束されていたほどです。しかし現在の呉服セクションの売上に占める割合は統計にも乗らない(その他衣料品扱い)ほどで、売り場も高階床に追いやられているのが現状です。百貨店業という業態は場所貸し業でもありますので、売り場面積当たりの売り上げ高(坪効率)が一定のラインを下回れば、売り場ごと撤退というシビアな世界です。しかし祖業である呉服セクションは「聖域」として守られ、少々「特殊」な売り場環境を呈しています。

売り場を受け持つのは大手の呉服総合問屋、商品ラインナップもフォーマル物が主体であることは先の理由で同じです。出入り業者が固定化され、商品の多様性に欠ける、そのような常設の売り場で紬を求めても、良い買い物につながるかは疑問です。

百貨店催事で陳列された廣田紬の商品。

百貨店で紬を求める場合は呉服催事を利用することです。大型の呉服催事となるとフォーマル物も含め、方々から様々な商品が集まります。紬においても普段はお店においていない商品がたくさん集まります。同時に販売応援でメーカーや問屋のスタッフも駆けつけますので、商品についての詳しい話を掘り下げて聞くことができるのです。常設売り場に置いていない商品、スタッフが集まる呉服催事、これらは普段懇意にしているお客さんへの招待制であることが多いのですが店内催事であれば一般のお客さんも入ることができます。ちょっと見せてくださいと一言かければ、今どき無下に断られることもありません。

外商サロンの入り口

外商顧客ともなると専用ラウンジ使用権や優待割引を受けることができ、各種催事への招待も。

さらに外商顧客ともなれば普段売り場にない商品をお買い得に買うことができます。大きな百貨店の旗艦店ですと呉服外商と呼ばれる専門知識を持つ特別なスタッフが在籍し、普段売り場に置いていない逸品を持ち回りしています。上得意様向けの商品を扱うこれら呉服外商は一般の呉服店では扱いきれない逸品を集めてくることが可能です。昔はどの百貨店も呉服外商が存在しましたが、現在では少なくなってしまいました。逆に言えば今でも呉服外商が存在する百貨店は、呉服事業に力が入っていると思ってよいでしょう。

 

ネットショッピングなど選択肢は様々

上記で紹介した呉服専門店、百貨店の他にも紬を買う方法は多岐にわたります。チェーン店、個人営業の行商人(昔ながらの見世物商い)、サロン風店舗、着付け講師経由の販売等々、、、販売形態によってメリット、デメリットはありますがどこで求めるにせよ紬に詳しい人から買うには越したことはありません。商品に関する基本的な質問(例えば使っている糸はどのようなものか等)をして、すぐに分かりやすく説明してくれるような人から買いたいものです。

そしてネットショッピングで着物を買う人も増えています。Amazon をはじめとするECの発達により従来の小売業という形態が大きく変わってしまう中、呉服のカテゴリは比較的保守といえるかもしれません。高額品は相手の顔がわかる対面販売でしっかりとした商品説明が必要だからでしょう。

ネット販売の推移

ネットでの消費額は15年で10倍に、富裕層である高齢者の利用額は比較的少ないことがわかる。

どこかのお店で現物を確認した上でネットショッピングで安く購入するのは昨今においては常套手段です。規格化された工業製品はどれも同じものですから、一円でも安い商品を探し出すことは経済合理性にかなった行為です。和装の分野においても工業的に作られた商品であればネットで購入するメリットは十分にあるのです。その際はアフターサービスや返品の可否について十分に確認しておくことも重要です。

同ロットが複数反作られる大島紬でも織り手によって精度や風合いが異なり、中にはB反も発生する。

そして手仕事で作られる伝統的な織物は同じものではありません。同じ結城紬でも商品によって糸使いや風合いが異なりますし、ロット生産される大島紬でも一反一反の品質にばらつきがあります。そのような状況でブランド紬だからといって現物を確認せずに購入することはリスクが伴います。価格を最優先にして選ぶと思わぬ落とし穴にはまることもありますので、紬を買いなれた玄人ほどネットショッピングには慎重になるべきです。

楽天で「紬」を検索すると12万件以上がヒット、新品から中古、難あり品などまさに玉石混交。

様々な商品を気軽に品定めすることができるネットショップ、知識がある人は偽物紬に騙される可能性は低いものの、耐久性に難のある中古品や出生の怪しいB反まがいの商品をつかませられる可能性は否定できません。実店舗で商品が実際に確認できる、無店舗型でも商品を一度取り寄せることができるなど、買い手側にリスクがないことを確認してみてください。相場よりかけ離れて安い商品があれば要注意、しっかりと吟味して納得することができれば、ネットショッピングは大変便利かつ安心して使うことができます。

以上、紬を買うべきお店は、オシャレ着物専門店がベストな選択肢なのです。セレクトショップともいえるオシャレ着専門店、洋服でもお気に入りのお店があるように必ず自分に合った良いお店が見つかるはずです。

生産数が少ないマニアックな商品(例えば秋田八丈)を扱うようなお店は店主の織物好きが伝わる。

 

紬フリークのあなたは

紬を求める方は着物に慣れ親しんだ結果、純粋に趣味としてファッションを楽しむ人です。紬はフォーマル物のようにどうしても必要だから買う、社会的地位からどうしても持っておかなければいけない類いの衣服ではありません。店員の勧められるままにとりあえず選ぶフォーマル着物と、自分が好きだから積極的に選びたいオシャレ着物とは買い物をする姿勢、意気込みが全く違うのです。

たくさんの産地があり、奥が深い織物の世界に虜にされた紬フリークのあなた、すでに一般的な呉服屋の店員より紬について詳しいことでしょう。ご自分が十分紬に詳しく他人のアドバイスは不要という場合、価格重視の購買スタイルになっているかもしれません。

そんな紬フリークの人のために次項では紬をお買い得に手に入れる裏ワザを紹介します。

 

 

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