機械化、電動化が進んだ機織り機ですが、いまだに手織りを頑なに…
- ブログ -
問屋の仕事場から
- 2020.09.09
- 手織りの紬、織物とは? 〜鑑定編〜
前項では手織りの織物とはどのような物か、織機の変遷を見ながら説明しました。後編ではどうすれば私たちの想像する「手織り」の織物と見分けられるのか商品を鑑定する方法を紹介します。
「手作り」や「ハンドメイド」という言葉を聞くと、ネガティブなイメージを思い浮かべる人はいないでしょう。それは自動化や省力化が進んだ昨今において、わざわざ手間暇をかけて作り出す商品には作り手の心がこもっていると考えるからです。
また、いくら技術が進歩しても人の手が介在した商品には数値では測りきれない創造性が生まれ、芸術性という価値が付加されます。さらに大量生産することのできない希少性もあいまって、手仕事の商品はいつの世も愛され続けています。
織物の世界においては早くから機械化が進み、よほどの趣味性が高いもの以外は自動織機で作られます。和装分野においても例外ではなく、市場規模のほとんどを占める振袖や訪問着などのフォーマル物に使われる白生地は手で織ることのできる代物ではありません。着物が「伝統的」な民族衣装と言えども製法まで伝統的とは限りません。手織りで作られるものは結城紬や大島紬などのごく一握りの工芸織物だけなのです。
そんなごく一握りの手織り生地ですが、どのように手織りであるか否を見極めれば良いのでしょうか。
反物は規格(サイズ)と素材、必要最低限のデメリット表示がされているだけで、製造方法の記載が義務付けられているわけではありません。呉服屋の店員さんでもキチンと答えられる人はほとんどいないでしょう。
中には証紙に手織りを思わせる記載のあるものの、明らかに動力織機で製造されているものもあります。織物通でなければ見分けることが困難な玉石混交の商品群、、、どのようにして見極めれば良いか解説していきます。
伝統証紙が張られているか確認
その織物が手織りであるか否か、素人でも確実にわかる方法の一つはは伝統的工芸品の証紙を確認することです。
国(経済産業大臣)のお墨付きの伝統証紙、伝産法という法律に基づいて金色に輝く証紙が発行されています。
例えば高級織物として知られる黄八丈は全て手織りで作られています。シャトルを左右に手で投げて緯糸を通すことが伝統技法として決められていて、この「手投杼」を用いることが黄八丈であることの条件となっています。故にどんな黄八丈でも証紙さえ貼ってあれば「手織り」であると担保されているのです。
注意しないといけないのは、この金色のお墨付きシールが貼り付けられていれば全ての織物が「手織り」であるわけではありません。
例えばこちらの伝統証紙が張られた小千谷紬、緯絣を使った商品ですが実は「手織り」で作られておらず力織機による製造です。なのに伝統証紙?と思われるかもしれませんが、伝統的工芸品はそれぞれに異なる条件付けがなされているため、必ずしも手投杼が使われているわけではありません。小千谷紬は絣合わせは手作業が要求されているものの、緯糸の打ち込みについては動力の使用が認められているのです。
※伝統的工芸品の条件である対象アイテムの歴史が100年という点においては、動力織機はすでに100年前には登場していました。
また、伝統証紙が張られていないからといって非手織りというわけではありません。あくまでも証紙が付与の条件が一つでも抜けていると貼り付けることができないだけです。
例えば伝統的工芸品の小千谷ちぢみは絣の使用が必須ですが、手投げ杼である必要はありません。言い換えればどれだけ手間暇かけて手織で織りあげても、無地や縞であれば伝統シールは付与されない織物もあるのです。
それではどうすれば確実に手織りの物と見極められるのでしょうか。
以下、参考までに動力織機の使用が認められている品目についてのリストです。自動機の所に◯が入っている品目については、投げ杼や引き紐(バッタン)に対する言及がなく、手織りの保証にあらずということです。
琉球の織物以外はほとんど力織機の使用が認められていることがわかります。機織りは印象的な工程ですが、全体からすればほんの一部にすぎません。伝統的工芸品の認定にあってはその他大多数の工程が手仕事であれば、織機に動力が使われようが問題ないのです。
織物には様々な証紙が貼り付けてありますが、法律に基づく伝統的工芸品は「手織り」の解釈を誤魔化すハードルが高く、正直に運用する必要があります。その他の各種証紙についても発行主体がどこなのか、どのようなルール、意図で貼り付けてあるのかを考察することで製造方法にある程度迫ることができます。
以上、国のお墨付きの伝統証紙(その公示内容)を確認することでどの技法でつくられているか一定の目安となるのです。
反物の耳を観察してみる
商品にその素性がわかる証紙類が張られていないなど、判断材料がない場合は反物の耳を観察してみることをお勧めします。
自動織機で作られた商品は耳端がスパッとした一直線になっています。あらかじめ決められたプログラムで、同じ動作を同じ力で繰り返すわけですから、キレイに耳端も揃うわけです。
手織りの場合は、人の手で左右に杼を飛ばすため、どうしても力の変化が出てしまいます。稀に機械織りのようにキレイに織りあげる人もいますが、長い距離を観察するとやはり力の加減の変化による波打ちを見つけることができます。
絣糸などを入れ込まないシャトルを投げるタイミングが一定の無地でも、織り進めていけばどうしても張力の調整などが必要になります。糸、機と対話しながら織り進めていく手織りは、人が介在した証拠(温もり)が必ず耳端に現れます。生地の表情が豊かになることにも繋がり、手織りの味は数値化できない付加価値となるのです。
以上、反物の耳端がギザギザであったり、波打っていた場合は手織りの商品である可能性が高いといえます。
商品価格から考察する
証紙や反物の耳端を見てもわからない場合、価格から想像する方法もあります。
反物を一反(12.5m)織るのには高機による手織りで一週間程度必要(単純な無地や縞柄)です。仮に一日6時間織り続けたとしても40時間程必要です。
織賃だけで数万円、材料費や段取り費用、各種経費を考慮すると手織りの商品の販売価格が十数万円程度ということは考えられないのです。
もっとも機械織り(仕入れコストが安い)の商品を不当に高く価格を釣り上げて販売しているケースもありますし、高い商品であれば安心というわけではありません。これに関しては真面目なお店で購入を検討するしかありません。
以上、証紙、反物の耳端、商品価格から素人でもわかる「手織り」の商品の鑑定方法を紹介しました。
何でもかんでも手織りであれば良いわけではありませんが、全身を使って織り上げる地機と、ボタンを押すだけで織ることができる力織機では、同じ機織りでも全く労力が異なります。製織は全体のほんの一部の工程でしかありませんが、その商品がどのようにして作られているか、やはり気にしたいものです。
動力で織り進める商品も一括りに「手織り」と表現されている現状を踏まえ、手織りの良さとは何か、手仕事を追求する姿勢とは何かを今一度考え直してみてはいかがでしょうか。
しばらく間が空きますが、別項の手織りの意義編では、なぜ現在の日本で今だに「手織り」が残っているのかを考察します。