手おりの里金剛苑は滋賀県愛荘町にある近江上布・秦荘紬を製作し…
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問屋の仕事場から
- 2019.08.17
- 紬を安く買う裏ワザ
紬を安く買う正攻法は信頼のおける呉服店と懇意にしておくことです。しかし手仕事によって作られる紬は人件費の塊ともいえ、どうしても手が出ない価格帯のものも存在します。中古品であれば格安で購入することも可能ですが、そこには不安や失敗がつきものです。しかし場合によってはリスクを負うことなく格安で新品の紬を購入することが可能です。
巷には様々なセールス文言があふれていますが、作家ものではない紬はある程度の相場が醸成されています。そこを大きく崩すのはなかなか難しいものではありますが、買う場所、タイミングや条件次第でお買い得に手に入れることができます。今回はそうした紬購入の裏ワザを紹介します。
①産地、織元から直接購入する
産地、織元から反物を直接購入することができれば流通コストが省かれた価格で買うことができるかもしれません。たくさんの品揃えからお気に入りを存分に選ぶことも魅力の一つです。
普段は直売をしていない産地組合や織元でも定期的に地元で消費者向けのセールを行うことがあります。昔は地場の有力産業であった養蚕や機織業を知ってもらおうという文化催事の側面もあり、他業者も巻き込んでちょっとしたお祭り的なポジションを確立している場合もあります。
産地に直接出向くことでその風土を知り、実際にもの作りが行われている工房の様子や職人と対話することもできます。産地で織物文化についての理解を深めればなおさら愛着がわくことでしょう。
地方まで出かけていられないという人向けには東京をはじめとする大都市での開催もあります。組合が主催する場合は会場経費などは助成金や補助金などの各種公費で賄われている可能性が高く、商品価格に理不尽な経費がオンされていることもありません。産地直売価格だからといって初めから相場の半額以下ということはないのですが、値下げ交渉する場合の余裕は理屈からすると大きなはずです。
中には織元が直接販売を積極的に打ち出しているところもあります。工房にギャラリーを併設したり、ホームページを立ち上げECサイトを展開するところ・・・ 消費者との距離を縮めることでトレンドが見え、売れる商品作りにつながります。
織元はあくまでも製造業で商売人ではありませんし、素人からコンタクトがあるのを厭うところは少なくありません。しかし積極的に情報発信している織元は訪ねてみるとよいでしょう。通常は小物などの販売しかない場合でもタイミング次第で反物や帯の直売をしてくれるかもしれません。
100円/kgのジャガイモを買いに北海道まで行く経済合理性はありませんが、100万円の反物を買いに地方、離島(東京から直行便で日帰り可能なケースも多い)に行くのは十分検討に値するのではないでしょうか。これがダイヤなどの鉱物だと相当なリスク(アフリカなどの治安の悪さが懸念される紛争地に行った挙句、二束三文を掴まされる結果に・・)がありますが、安全な国内で一応は各種証紙で真贋は担保されているのですから。
②自治体の助成金を利用する
高級紬の双璧をなす結城紬と大島紬、大変な高額品となりますが、条件次第では半額で新品を手に入れることが可能になっています。
結城紬は糸の原料コストだけでも10万円以上といわれ、一番シンプルな無地、縞でも軽自動車が買えてしまうほどの値付けがされています。着るものに月給の数倍お金をつぎ込むのはなかなか現実的ではありません。しかし小山市の結城紬購入費等助成制度を利用することで、憧れの結城紬を現実的な価格で手に入れることができます。
以下、小山市が公表している制度の概要です。
反物(帯もOK)購入費用+仕立て代の半額、最大40万円の助成金がおりることになります。仮に仕立て上がり価格80万円の結城紬の場合、格安半額の40万円で手に入れることができるのです。
結婚を機に結城紬を購入!昔は男性の結納返しには紬の着物が定番の時代がありましたが、こういった制度がきっかけになって揃えてもらえればありがたいものです。他の条件は助成率が下がりますがなかなか魅力的ではないでしょうか。申し込みは栃木県本場結城紬織物協同組合(TEL0285-49-2430 )、産地直売ならでは品揃えも魅力も期待できますし、各種流通を介せずに産地が直接潤うことは重要です。
結城紬の産地である小山市は盤石な財政基盤をもった稀有な自治体です。お隣の結城市とは異なり結城紬の保護にも力を入れる余裕があり、「紬織士(つむぎおりし)」として市が専門の職員を採用、公務員が結城紬の製造に携わっているほどなのです。
本制度のネックとなるのは小山市に住民票が一年以上あることです。小山市民の方は全く問題ないのですが、わざわざ住民票を移してみる価値は十分にあるでしょう。
非居住地に住民票があるのは厳密には違反ですが、行政罰である過料が万が一発生したとしても最大で5万円(国庫に寄付)、そして各種の流通を通さない分、産地の利益に直接貢献できるので小山市としても大目に見てくれるかもしれません。
大島紬においても奄美市と龍郷町が同様の助成金制度を設けていて、消費者に現金給付による実質割引が行われています。この制度のおかげか奄美市、龍郷町の成人式(費用の4割を補助)における大島紬の着用率は着実に増えています。
また別項で紹介したふるさと納税使って紬を2000円で手に入れる方法もこの助成金をうまく活用した方法といえるでしょう。
公金を使って産地が直接消費者に紬を販売する仕組み、既存の流通ルートからは民業圧迫だと非難されるかもしれません。しかし地産地消の仕組みを継続的に作っておくことは産地の存続にとって大変重要なことです。地元の人に紬の素晴らしさを知ってもらうハードルを下げることで、後継者不足の解消に少しでもつながるかもしれないからです。他の産地でも積極的に継続的な助成の仕組みを創設してもらいたいものです。
③減損処理された店頭在庫品を狙う
振袖や染袖などのフォーマルな染物とは違い、紬は丸巻き(巻き反)の状態で保管されるため紫外線による劣化が進みにくい商品です。フォーマルものは場合によっては数回の展示会でダメージ(陳列ヤケ)が発生しそれに応じた補正が必要になってしまいます。しかし先染め織物は致命的なダメージを受けることなく10年以上経過することなど珍しくはありません。定番の柄は陳腐化もありませんし、むしろ現在では再現できない技術があったりするほどです。絹織物は繊維が経年で劣化しますが、適切な条件で保管されていれば10年程度の経年は問題ありません。
そして会社が会計業務をするにあたり、固定資産である在庫は5年や10年といった一定の期間が経つと、商品価値が下がったとみなし、減損会計処理を行います。そうすると10万円で仕入れたものが5万円の原価となり、当然売値もそれに応じたものになります。いままで高値の花だった憧れの商品が半額以下で売られることになるかもしれません。もし格安商品があったとしたらその理由を聞いてみる良いでしょう。経年によるヤケ等を考慮してB反になっているのではなく、会計上の減損処理によるものであれば大変お買い得な商品といえます。
なんの瑕疵もない商品が半値で売られたのでは作った職人(作家)からすれば理不尽なものですが、消費者にとっては大変ありがたい話です。個人商店などではそういった在庫管理のルールがない場合もありますが、杓子定規なルールがないだけに相談次第で更に柔軟な価格交渉が可能かもしれません。
人気商品やよい柄は早く売れてしまい、このようなケースは少ないかもしれません。しかし極めて高額な品や特異な柄、用途がマニアックすぎる特殊品についてはなかなか日の目をみることなく、デットストック化している場合があります。高値の花だった憧れの商品が10年越しでショーウィンドウに再出現したときがチャンス、思い切ってお店の人に相談してみましょう。
④個人間売買を利用して新古品を手に入れる
「ヤフオク」や「メルカリ」といった、業者を通さない個人間売買ツールが人気です。着物に関しても大量に出品されていて、仕立てられていない反物の状態の商品が稀に見られます。
いわゆる新古品というもので、いったん消費者の手に渡ったものの何らかの理由で仕立てられずに反物のままの状態をキープしているものです。カビやヤケなどの致命的なエラーが潜む可能性は否定できませんが、保管状態が良ければ各種堅牢度に優れる先染め織物は「mint:新品同様」の状態が期待できます。
本当に価値ある新品であればバッタ屋をはじめとするリサイクル業者がすぐに買い付けますし、なかなか手に入れるハードルは高いかもしれません。しかし粘り強くパトロールしていればいつかはこれぞという商品に出会えることでしょう。
また、古い商品は反物の巾規格が狭(9寸5分)かったり、長さが短い(短尺:3丈2尺以下)であるなど、着用することのできる人が限られてきます。体格の小さい人はこの点は問題ありませんので、古い新古品に挑戦してみる価値は十分にあります。
相手の顔、商品を直接見ることのできない個人間取引はリスクが伴います。しかし反物が新品状態であればカビやヤケ、シミ、変な臭いなどのダメージがないか予め確認することで「当たり」の可能性はグッと高まります。さらに返品可能な条件であれば試してみない手はありません。様々なリスク故、中古に抵抗がある方は反物の状態の「新古品」にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
⑤信頼のできるお店で別誂えをする
一反から作るとなると、それ専用に手間がかかるため高くなるかと思われがちです。しかし販売店と顧客の信頼関係がしっかりとできている場合、別誂えもスムーズにいきます。紬の特性をよく理解し、お客さんの注文、好みを的確に組み上げてモノづくりに反映可能なお店を選ぶことが大切です。
販売店をはじめ流通サイドにとっては在庫リスクがなくなりますので、その分は価格で還元することができるかもしれません。自分の好きな色、柄(制限はありますが)で世界で自分だけの一着を誂えることができる「紬の別誂え」、大変お買い得な方法といえます。訪問着などでは一般的な別誂え、相応の納期は要しますが織物でも可能ですので一度お試しください。
以上、紬を格安で購入する手段を紹介しました。バーゲンセール、大特価、蔵ざらえ等、様々な売出し文句がありますが、決まった仕入原価に利益を載せて販売する構造は同じです。今回紹介した手法はその「原価」に切り込んだものです。いろいろと条件付ではありますが、試してみる価値は大いにあるはずです。