好きな自治体に寄付をすることで税還付が受けられるふるさと納税…
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問屋の仕事場から
- 2018.07.14
- 2000円で紬を手にする ~産地が潤うふるさと納税~
今から10年前に公布されたいわゆる「ふるさと納税」制度、年々認知度は高まり平成29年度の適用者は225万人、納税額は2,540億円にも達しました。寄付に対する返礼品として各自治体は様々な特産品を用意していますが、その中には紬をはじめとする伝統工芸織物の姿もあります。
ふるさと納税制度が広く知れ渡ったのは、東日本大震災で被災地を支援しようという動きがあってからです。本人の出生地やゆかりのない自治体に対しても寄付が行えることから、納税者は様々な返礼品を期待して寄付をすることができます。全国からの寄付を集めることができれば莫大な税収を得られることから、各自治体はこぞって豪華なふるさと返礼品を用意しました。そして制度の趣旨にそぐわない商品や企画が続出、税の公正を歪ませる事態となったのです。
寄付金が控除に使える上に、返礼品を受け取ることができるとなっては申し込みが殺到します。制度の趣旨を尊重しない自治体の間では返礼品の豪華さを競い、節操のないところは換金性の高いアイテムを推奨する始末。これらはさすがに問題視されるようになり、総務省から返礼品は寄付額の3割までと通達が出されます。平成29年はその駆け込み寄付で、ふるさと納税狂想曲ともいえる活況を呈したというわけです。
紬のふるさと返礼品
モラルハザードともいえる歪んだシステムを是正するため、返礼品は寄付額の3割までとするとの通達が出されましたが、その基準もあいまいで総務省との間で様々な駆け引きが行われています。あからさまに換金目的の返礼品などは御上から指導が入るようですが、市場価格が一定でない工芸品分野においては野放し状態です。保護すべき分野には目くじらを立てない方針なのかは定かではありませんが、納税者にとっては大変お得なシステムに違いありません。
今回は「ふるさとチョイス」という2012年オープンの老舗サイトから紹介、織物分野でも加工品を中心として様々なアイテムが返礼品として用意されています。中には反物もありますので、さっそくそれらを見ていきましょう。
まずは紬の代表大島紬、寄付先は鹿児島県奄美市です。
本場大島紬の泥染めが38万円の寄付で返礼されることになります。提供されている画像では地空きの飛び柄と9マルキの詰柄と思われる商品が混在しています。製造コストは何倍も開きがありますので、消費者に誤認させるような写真を掲載するのは問題です。一応写真は見本で直接問い合わせとのことですが、大変魅力的な価格であることは確かです。
こちらは男物の疋物(着物と羽織)、50万円の寄付で返礼されることになります。男物の定番ともいえる亀甲柄、提供されている画像が粗く詳細を判別することはできませんがとても値打ちのあるものです。
なお、もう一方の産地である鹿児島市からはこのような返礼品の設定はありませんでした。
そして大島紬と双璧をなす結城紬についてもふるさと返礼品の設定があります。こちらは栃木県小山市への寄付が対象になります。
結城紬の縮織が350万円の寄付で返礼されることになります。その金額はともかく、驚くべきは縮織の総詰柄であるということです。なかなか市場に出回ることのない最高レベルの希少品です。注意すべき点は「ご用意出来次第」とあります。写真が在庫なのか、参考品なのかわかりませんが、仮に新規で作る場合は確実に一年以上は要しますので注意が必要です。そして「何度でも申し込み可」とありますが複雑な絣柄の場合は一反だけ作るわけにはいきません、副反の在庫リスクをどこが負担するか気になるところではあります。
他の品についても設定があり、それらは産地に出向き柄を選ぶことができるようです。高額品である結城紬は販売店の店頭でも数が限られますので、豊富な品ぞろえから選ぶことができます。しかし現物を見ることなく高額の支払(寄付)をした後に商品を選ぶことになるのですから一般の感覚からしたら疑問を持たざるをえません。先にどの様な柄があるか問い合わせてから寄付する流れになるのが好ましいでしょう。
そして久米島紬、こちらは沖縄県久米島町への寄付が対象になります。
着尺と帯のセットの返礼品、桁が多くて目を疑いましたが一千万円の設定がなされています。現在は品切れ中との表示があり、現在久米島紬としては帯が100万円の寄付で返礼されることになっています。経緯絣の着尺(300万円の寄付で返礼)もありましたがこちらも品切れ状態、仮にこの着尺と帯とセットであれば単純計算で400万円になりますので、一千万円の設定は納税者に理屈が通りません。このままでは産地の姿勢が問われそうですので是正を行うべきでしょう。
そして加工品の紹介、こちらは宮崎県都城市への寄付が対象となります。
宮崎県都城市といえば隠れた大島紬の産地でもあります。夏大島や綿薩摩を手掛ける東郷織物がプロデュースするネクタイ、こちらは8000円寄付での返礼品となります。
他産地においてもバッグやストールなど様々な商品が返礼品としてラインナップされており、そのほとんどが10万円以下の寄付で返礼されるアイテムです。
2000円で紬が手に入る
ふるさと納税制度を利用すると寄付控除が受けられ、実質負担金2000円で様々な返礼品を受け取ることができます。寄付者の収入によって控除額上限が設けられており、収入が多ければ多いほどその額が増え、低負担で豪華な返礼品を得ることができます。
以下、年収別の控除限度額(概算、条件によって多少変動あり)です。
これは年収500万円の人が33000円寄付したら、実質2000円の負担で返礼品が手に入るということです。先ほどの例ですと、年収2000万円の人はなんと2000円で大島紬が手に入る計算、結城縮@350万円の場合は年収一億円になります。2000円の負担で紬着尺を手に入れるとなると限られた層しか現実的ではありませんが、各種小物であれば多くの人にとって現実的な選択肢になりそうです。控除額にこだわらなくても寄付額よりお得なパターンもあり、それらを見逃さないように毎年チェックしてみてはいかがでしょうか。
産地が直接潤うふるさと納税
ふるさと納税は各種流通を介することがない為、その地方を直接潤すことに繋がります。納税者は返礼品による実質的な節税メリットがありお互いがWin-Winの関係になる素晴らしい制度です。産地の出荷額と市場価格のギャップが大きいほど産地にとって大きな利益につながります。現在は一部の産地での展開に限られていますが、他産地も積極的に乗り出してほしいものです。
流通の立場からするとこのテーマにスポットを当てるのもどうかと思いますが、産地が疲弊してはモノづくり自体ができなくなります。産地が直接的に潤うこのような制度には賛成ですし、単なるカンフル剤としてではなく継続的に地元に利益が還元される仕組み、返礼品の展開をしてほしいと思います。
今回紹介の返礼品は今年度で終わってしまう可能性もありますが、「ふるさと納税+紬」で検索をしてみてください。紬の反物だけではなく、なかなか市場に流通しない嬉しいアイテムが見つかることでしょう。