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問屋の仕事場から

2019.02.06
男物の麻平織物といえば能登上布

男性向けの夏の麻織物といえば、数の上では近江ちぢみや小千谷ちぢみが主流ですが、シボのないすっきりとした織物が欲しいという方に能登上布という選択肢もあります。

世の中には様々な麻織物がありますが、その中でも上等なものを上布といいます。献上品として支配者層に上納されるような品質のもので、庶民が着ていた下布とは明確に区別されていました。有名な越後上布や宮古上布は、手績みの糸を使ったものですと年間生産数は20反(帯含む)程度、着尺であれば数百万円というとても現実離れした価格となってます。他に麻の平織物としては近江上布がありますが、コスト高からほとんど生産されていない幻の上布になっているのが現状です。

そうなると気軽に求められる上布といえば能登上布になります。特に絣を使わない縞柄については更にリーズナブルなものになります。上布という特殊なカテゴリーの中で、男性向けの広巾の商品展開があるのは能登上布が随一といってよいかもしれません。

能登上布の糸は紡績で作られた強く均質なものです。コンニャク糊がサイジングされた麻糸は肌にまとわりつかず、麻独特のチクチク感が抑えられています。そしてすべて手織りで織られた生地表面からは、自動織機で織られた商品では決して出せない味わいが伝わってきます。コストダウンのために自動機で織ることは簡単にできますが、生産効率が10倍に上がったとしても10倍以上の数量が売れる時代ではありません。数少ない手織りの麻織物として今後も作り続けてほしいものです。

 

単純な縞だけではなく、亀甲絣、十字絣といった絣物の商品展開もあります。

こちらも男物に対応できる広い巾で織られています。縞のデザインと比べて価格は倍以上になりますが、それでもカテゴリー内では十分リーズナブルなものです。

独自の絣ずれに味を見出してしまう。

興味深いのが絣のズレが結構あって、それがまた良い意味で面白さとなって表れています。写真の亀甲絣はロール捺染と呼ばれる技法を使って絣糸は作られるのですが、大型の機械ドラム式のローラーで一気にロット全部を捺染していくのではなく、小さなローラーを手に一つ一つ絣づけをしていきます。

絣の基本ともいえる十字絣、 多少のズレが生じている。

経緯の絣合わせも、寸分違わずきちっと合っているわけではなく、それなりに誤差があります。これが絣の精緻さを特徴とする大島紬であれば難物扱いされてしまうレベルかもしれませんが、これはこれで良い味に見えてしまうのは気のせいでしょうか。機械制御ではマネのできないこのランダムな絣ずれは、人の手仕事の証として付加価値とさえなっています。

麻の平(非縮織)生地で高品位かつリーズナブルとなるとまず選択肢に上がる能登上布。しかし、あくまでも他の上布に比べて「比較的」安価なだけで、一般の感覚からするとなんの変哲もない縞の麻織物が、フルオーダースーツが買えてしまうくらいの価格で流通しているのは恐ろしいことです。能登上布は多い時の生産数は40万反以上、100軒を超える機屋を抱える産地で、麻上布といえば能登上布というくらい大量に流通していました。しかし戦時中の統制をきっかけに生産は激減、現在ではたった一軒のみの営業となってしまいました。一軒だけとなれば供給面で独占的で有利な状態ですが、価格競争に陥らず、腰を据えた真面目な物作りができるということでもあります。

男物の越後上布(手前側)との比較、同じ縞柄、色合いでも明確に地風が異なる。

以上、男物の上布といえばまず能登上布、それでも飽き足らないという方は越後上布などの手績みの糸を使った特殊品になりますが、男性用の広巾で織られるものはなかなか生産されておらず、時間をかけて別誂えすることもあります。その点、能登上布であれば多彩なバリエーションから選べますので、それぞれの中からお気に入りの商品が見つかるはずです。