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問屋の仕事場から

2018.09.24
雑味が魅力の正藍染

藍は身近な染色材料として古くから使われ、ジャパンブルーとして国を代表する色にもなっています。着物にも多用されている藍ですが、伝統的な正藍染の魅力を紹介します。

そもそも藍とは

好きな色のナンバーワンに上げられることが多い青系統の色、濃い青ともいえる紺は男物の定番になっています。青は気分を落ち着かせてくれますし、すっきりと嫌味のない色です。空や海といった毎日見ざるを得ない親しみ深い色ですし、この色を嫌いだという人はまずいないでしょう。

藍染の青の色素はインディゴ(Indigo:インジゴ)という物質由来によるもので、化学的には以下の構造式で表されます。物質名自体はインド産の植物から取れるものがメジャーであったことに由来しますが、人類は各々の地域に応じた様々な植物からこの色素を取り出すことで青色染料を得ていました。

極めて単純で小さなインディゴの構造式

純粋なインディゴのみを取り出しして塊にしたもの。 

 

世界各地の藍はそれぞれの青を作り出し、各々の染色文化を作り上げることになります。日本においては蓼藍(タデアイ)が主に栽培され、特に徳島産の「すくも」をつかった阿波藍はその品質の高さで全国に知られることとなりました。そして木綿が普及するにつれ江戸時代には藍、紺系統の色が庶民に広まりました。

青の色素はラピスラズリなどの鉱物からもとることができますが、コスト的な面から植物からインディゴを抽出するほうが圧倒的に有利です。しかしそれでもインディゴを得るために植物を栽培、収穫、加工するのに大変な手間がかかります。人件費の安い植民地から染料をブロックの状態で船で運ぶといってもそのコスト削減は大きな課題になっていました。

水色、浅葱、縹、紺・・・一口に藍色と言っても様々な濃淡、色調がある。

化学が飛躍的に進歩することになった19世紀後半、ドイツでインディゴの化学合成が成し遂げられます。今まで多大な手間がかかっていたインディゴの抽出を、純度の高い状態で安定生産するができるようになったのです。

化学的に全く同じものが比較にならないほどの安価で大量に供給されるようになったため、従来行われていた植物藍からインディゴをとる方法は完全に廃れてしまいます。世界各地では藍農家が失業、地域で行われていた染色文化に大きな影響を与えます。日本においても例外ではなく、BASF社によって安価な人工藍(インディゴピュア)がもたらされます。安価に藍の絣織物が作られ、様々な産地の発展に寄与した一方、藍文化の多様性が失われ画一化してしまいました。現在では様々な青の化学染料が開発され、インディゴと染色相性の悪い様々な繊維を青色に染めることが出来るようになっています。

 

雑味が魅力の正藍染

化学的に合成された人工藍に対して、従来の方法で作られた藍を正藍(本藍)と呼称しています。本来の方法でつくられた本当、正当な物であるという事でしょうが、純度の観点からすると人工藍のほうが本当の物質であることに疑いの余地はありません。人工藍の圧倒的なコスト競争力によって正藍は居場所を失ってしまたかに見えましたが、驚くべきことにしっかりと産業として存続しています。

わざわざコスト高の正藍が作られている理由、それは人工藍にはない雑味を人が求めるからです。不純物が混ざっている正藍は焼酎でいうところの乙類(原料によって様々な風味になる)、人口藍は甲類(無色透明で雑味、クセがない)といえるでしょう。

たで藍を乾燥させたもの。材料自体は染料専門店から購入可能。

自然素材を使って手仕事で作られる正藍はその時にしか出せない色です。定量化できない温かみはどこか人を癒してくれます。このあたりは自動織機で織られた均一な織物と、手織りで作られた地風の豊かな織物との関係によく似ています。

廣田紬ではあえて正藍にこだわった商品を提案しています。

正藍を使う丹波布、染出しは専門の紺屋でされている。

正藍染の糸を使った大島紬、藍染の大島紬も少なくなってしまった。

正藍が使われた結城紬の見本帳。昔は正藍が使われていたが、現在は合成染料が使われている。

藍ボカシの郡上紬、正藍による色の深みがグラデーションとなって現れている。

琉球藍を使った琉球絣、蓼藍とは異なる手法で作られる。

宮古上布の帯、宮古島の海と空を連想させられる鮮やかなブルー。

様々な表情を見せてくれる霞ボカシの真綿紬、志村ふくみ氏によるもの。

青い生地

小石丸を自家製の藍で染めた綾の手紬。

正藍染めが使われていたころの結城紬の古裂寄せ。

グラデーションが美しい阿波しじら織。

藍を基調にした唐桟織、今となっては貴重な木綿の手織り縞となってしまった。

予測不可能な「雑味」が魅力的な正藍ですが、副次的な効果として抗菌、防虫効果があります。不純物の中にはピレスロイドといった殺虫成分が含まれていることがわかっていますし、経験則として藍の布は虫を寄せ付けないことが分かっていました。その他にもUVカット機能や消臭機能なども知られています。更に化学薬品を使わない昔ながらの発酵建ては自然環境への負荷をかけないメリットもあります。

※藍の抗酸化能やアトピーへの効果が取り上げられることがありますが、布として経皮摂取はされないので注意が必要です。

そして熟達の職人によってしっかりと管理、染め上げられた藍染は色落ちや色移りがしません。

 

数千年まえのミイラからも藍染の布が見つかっているように人類は古くから藍と関わってきました。様々な化学染料が開発され、「青」が容易に入手できるようになった現代でも、植物からインディゴを得る従来の非効率な手法は続いています。それは人工物ではどこか味気ないという人の感性が正藍染めを求め、人を夢中にさせる不思議な力を秘めているからです。

知れば知るほど魅力的な正藍染、それぞれに作り手のこだわりが光っています。青系統の色がお好みの方は是非一度手に取ってみてはいかがでしょうか。

 

正藍染めのハンカチ、手織りの里 金剛苑では手軽に藍染体験ができる。 

栽培されている蓼藍 @手織りの里 金剛苑

沖縄の織物に使用される琉球藍、蓼藍とはまた別の品種である。


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