通常の商品には真贋や産地証明のための各種証紙が貼られており、…
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問屋の仕事場から
- 2018.09.01
- まがい物だらけの結城紬 〜本場結城紬を見抜く方法〜
ニセモノ紬の項を読まれた一般消費者の方から問い合わせをいただきました。中古市場を中心として想像以上にまがい物が出回っていて、いまだに誤解を招いているようです。証紙をきちんと確認すればそれで済むことですが、今回はそんな結城紬のまがい物について項を設けてみました。
結城紬というと茨城県結城市、栃木県小山市周辺で作られる織物全般の事と一般には認識されていますが、「本場結城紬」という商標自体は産地組合によって商標登録されており、しっかりとした定義づけがなされています。本場結城紬の分類については別項で解説していますので参考にしてください。
逆に言えばそれ以外の結城紬については取り締まる法的根拠がなく、結城という名を冠した織物が氾濫する原因になっています。他産地で作った織物でもそれっぽい証紙さえ張り付けてしまえば結城紬として流通してしまうのです。まがい物商品が流通するということは、それだけ結城紬のブランド力があるという証左ですが、それと気づかず騙されたほうは少なからず憤りを覚えるでしょう。
廣田紬ではそのような誤解を招くような商品の取り扱いはございませんが、フリマアプリやネットオークション上には法的に完全にNGなものからパロディともとれる商品、様々な怪しい商品がありました。現在は製造されていないものがほとんどですが、着物が全盛だった時代の混沌が見てとれます。
呆れるくらいバリエーションがありますが以下、一部を紹介していきます。
まずは完全に法的にNGな商品から。
箱書きに本場結城紬と記載があり、反物の端にも明確に本場結城紬と入っています。証紙を確認する限り本場結城紬の商品ではありません。言葉や売り文句で本場結城紬と騙すのであればともかく、箱書きや商品にもあからさまに記載してあるケースは珍しいといえるでしょう。
次は結城紬の商標の文字を改変した商品です。
証紙自体が非常に似ており、糸車を操る婦人の姿は一瞬とはいえ騙されてしまいそうです。極めつけは卸商組合の証紙の字が糸へんに周と書いてあり、存在しない字体になっています。周の土の部分がキであれば「綢」という字が存在しますが、とにかく怪しい。本場結城紬の「結」印と石毛結城紬の「紬」印で両者を見分ける方法は周知されていますが、さすがにこれを見たときは目を疑ってしまいました。
引き続きこちらも素性が怪しい商品。
「結」印ではなく、「紬」印でしたので石毛結城紬かと思われましたが何かが気にかかります。証紙の下の部分には伝統的工芸品と記載されています。伝産法による伝統的工芸品に指定されているのは石毛結城紬ではなく本場結城紬です。「紬」印の石毛結城紬に似せたニセモノということになり、ややこしい代物です。
お次はニセモノとまでは言いませんが、グレーゾーンの商品です。
箱書きには本場草木結城紬と記載されており、本場結城紬を草木染で作ったものと思わせます。結城紬はほとんどが化学染料で染められていますから、こちらのほうが付加価値があるのではないかという優良誤認を引き起こす懸念があります。ちなみに某業者が「本場夏結城紬」と商標登録しようとしたところ、本場結城紬と誤認される恐れがあるということで特許庁に却下されています。
その他にもたくさんの怪しい結城紬が存在し、紹介しだすときりがないくらいですがトリを務めるのはこの商品。
貼られている証紙には本格派のきもの、珈琲結城紬と記載があります。完全に??なのですが、さらに不可解なのは紬の字が「子+由」となっていてそんな字はこの世に存在しないはずです。地機を操る女性が見えますが、この手の商品は自動織機で織られたものに間違いありません。まがい物もここまでくるとフランク三浦状態で、お笑いとして受け流してもらえるでしょう。
※フランク三浦:高級時計のフランクミュラーのパロディブランド、商標登録を機に本家から訴えられたが、裁判所は価格が違いすぎることから消費者も混同することはないとしてフランク三浦側の勝訴となった。
以上、結城紬のまがい物の世界を紹介しました。きちんと証紙さえ確認すればわかる話なのですが、間違い探しのような証紙があるのも事実です。
結城紬に限ったことではありませんが、証紙がやたらと張り付けてあったり、立派な桐箱に入っていたり、怪しい商品は様々なデコレーションで威厳を持たせるようにする傾向があるようです。製造責任の所在が明確でない何とか保存会やら、何とか同人会などと記載のあるの証紙にも要注意です。
商標権についての判断は難しいところで、塩沢の織物組合が登録した「塩沢紬」「本塩沢」に対し類似しているとして、私企業が登録した「塩沢絣」の登録無効を争う裁判では組合側が敗訴するという結果になっています。
そして、本当の問題はそれらの織物自体ではなく、その売り方に問題があるのです。生産者、販売業者が結城紬であると消費者が誤認することを期待しなければこのような商品は存在しないはずです。現在の萎むマーケットの中では法律を犯してまでニセモノ、まがい物を作る動きは下火ですが、混沌とした中古市場が業界の過去を現しています。一昔前は現在のように少し調べれば真贋がすぐに分からなかった時代で、結城紬の文字に騙された人も多かったでしょう。特に後染めの商品の場合、結城紬の訪問着と謳って付加価値を演出していることがよくあります。
中古市場にあふれるニセモノ、まがい物紬たちですが、中には素晴らしいデザインのものが存在したり、しっかりとした品質のものもきっと見つかるはずです。このブログの読者であればニセモノを高値でつかまされることはないでしょうし、まがい物についても先の珈琲結城紬のようにパロディとして割り切って値踏みすることができます。
混沌とした時代の負の遺産ともいえる怪しい結城紬達ですが、それはそれで現在の市場を盛り上げる一助となっています。歪んだ多様性ともいえますが、それらがあってこそホンモノに触れた時の感動もあるといえるでしょう。
以上、まがい物の結城紬の紹介でした。
※廣田紬では一般消費者様からの着物の鑑定業務は行っておりません。あらかじめご了承ください