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問屋の仕事場から

2018.10.31
本場結城紬 伝統の糸取り婦人像考察

結城紬は超がつくほどの高級品のため、その名にあやかったまがい物が氾濫しています。そのため消費者が惑うことのないように検査、卸商業組合によって証紙が貼りつけられています。平成17年には検査証紙の刷新がありましたが、伝統の糸取り婦人像は何と100年以上も同じ意匠のものが使われています。

いきなりですがクイズです。本場結城紬に貼られている婦人像の証紙、冒頭の画像のうち正しいものはどれでしょうか。

 

答え:すべて本物です。

 

現在の「結」を含めた一連の証紙が出来上がったのは1920年、組合HPより。

本場結城紬に張り付けられている複数の証紙類、その象徴ともいえるのが中央の糸をとる婦人像です。「つくし」に袋真綿をかぶせ、糸をズリ出していく独特の糸取り工程は本場結城紬のトレードマークになっています。無撚糸の手紬糸が使われるのは本場結城紬だけで、他の織物に張り付けてあれば消費者の誤認を招くことになりかねません。

そのはじまりは明治に入り20年、商標権という言葉が認知されだした1887年に商標登録されたのが最初です。以来、100年以上にわたりこの糸取り婦人像が少しづつデザインを変えながら本場結城紬の証紙に使われいて、現在は本場結城紬卸商協同組合によって証紙が発行されています。

 

現在用いられている証紙がこちら。見る人が見れば一目で本場結城紬とわかる見慣れたものです。

戦後長きにわたり本場結城紬を扱ってきた廣田紬では様々な証紙が保管されています。遠めに見るとすべて同じように見えますが、実は少しづつ細部が異なるのです。

古いものからざっと変遷を見ていきます。

婦人が現在のものとは別人になっていて、気のせいか少しふくよかに見えます。本場結城紬織の字をはじめ横文字は左から記載されており、時代を感じさせられる表記です。下總國結城市 物産織物之証と記載されており、愛隣堂(桐生の印刷屋)によって版が作られたものであることがわかります。

数年後刷新された証紙がこちら。

婦人がまた別人になっています。嫁いできた若い娘でしょうか、先の婦人と比較すると随分幼く見えます。周囲を飾る桑と繭の細部も変化が見られます。波の網掛け部の角度が変わり、愛隣堂の文字も右書きに変化しています。

次に大きな変化があったのがこちら。

娘が成長したのでしょうか、また別の婦人に変わっています。以降の証紙では夫人に大きな変化はなくこの絵が使われ続けています。また下總國結城市が茨城縣結城市に変わっています。このころは印刷技術が未熟だったのか、色ズレ、ニジミがみられます。

更に数年を経て若干の変化が見られます。

よく見ると婦人の頬のホクロが消えています。髪の毛に艶が表れたり、着物の絣模様がはっきりとして印刷具合にきっちりと締まりが出てきています。背景の麻形もにじみなくくっきりと浮き上がっています。

以降、少しづつ印刷具合が違えて同様のデザインのものが発行され続けています。頻繁なデザイン変更は消費者の混乱を招きますが、気付かれないようなマイナーチェンジ偽造防止の抑止力にもつながります。

右側が平成30年に生産された反物に張り付けてあった最新の証紙で、発行年が異なる古い証紙と見比べてみます。髪のツヤが黒潰れしているのは印刷具合の違いかと思いきや、明確に異なる箇所もあります。例えば赤丸で囲ってある帯の側面部分、ドットの数が違います。ここまでくると難易度の高い間違い探しの域です。

実は昔に結城紬の某生産業者がこのラベルの偽造を行い流通させてたことがありました。精巧に偽造された証紙には消費者はおろか、販売店、問屋まで欺かれてしまいます。発覚のきっかけになったのが、ある問屋の従業員が他の証紙との違和感を訴えたからでした。組合に持ち込んだところ偽造が発覚、刑事事件としては裁判沙汰にもなります。既にその業者は追放されてしまいましたが、相当数の出所が怪しい商品が流通することになりました。

昔は信憑性を持たせるために、証紙の下に商標をわざわざ折り込むこともあった。

一昔前は本場結城紬のレッテルさえついていれば、容易に質屋で大枚に換金できた時代がありました。しかし生産数が3ケタになっている昨今では柄の種類も限られ、見る人が見ればどこの機屋が作ったものかすぐに判別できてしまいます。証紙を偽造、リスクを冒してまで素性の怪しい商品を流通させるメリットはなくなってしまったのです。

参考:ニセモノ紬!? 伝統工芸織物の贋物のお話 

100年を超す歴史の糸取り婦人像、少しづつ姿を変えて現在の姿に至ります。今後も欧米のハイブランドのタグのように偽造防止のホログラムが入ったりすることはないでしょう。伝統工芸品らしくいつまでもアナログな方法でいてほしいものです。

 

 

 

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