ニセモノ紬の項を読まれた一般消費者の方から問い合わせをいただ…
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問屋の仕事場から
- 2019.06.18
- 証紙が貼られていない結城紬のこと
通常の商品には真贋や産地証明のための各種証紙が貼られており、消費者が商品を選ぶ基準にもなっています。結城紬においても「各種」証紙が貼り付けてありますが、稀に証紙のない商品も存在します。
結城紬に貼り付けられている各種証紙、合計で6枚になりますが発行主体は「本場結城紬検査協同組合」と「本場結城紬卸商協同組合」の2機関のみとなります。
左右両端に貼られている2枚が本場結城紬検査協同組合(以下検査組合)発行のもの、中の4枚(赤枠)が本場結城紬卸商協同組合(以下卸商組合)発行のものになります。卸組合発行の証紙の一つ(赤枠右端)は卸商組合独自の検査証でもあり、結城紬はダブルスタンダードの検査を経て流通していることになります。
結城紬の証紙については結城紬の種類の解説やまがい物シリーズで詳しく解説していますが、中には証紙が貼り付けられていない商品もあります。消費者からすればその反物が得体の知れない紛らわしいものになりますが、いったいどのように捉えればよいのでしょうか。
実は廣田紬においても昭和の50年代前半までは検査組合の検査証だけを貼り、卸商の証紙を貼る代わりに独自の証紙で結城紬を流通させていました。廣田紬扱いの結城紬は最高品質の手つむぎ糸で織られ、その品質の確かさは多くの一流呉服店に贔屓にしていただきました。廣田紬の亀甲印が織りこまれた結城紬は別物であるという独自のポジションを確立していたので、わざわざ卸商の証紙を貼る必要性がなかったのです。
しかし結城紬の名声が高まるにつれ様々な証紙が氾濫します。厳しい消費者対応が求められる百貨店側からの要請、証紙が乱立するのを防ぎたい卸商組合側の要請もあり、廣田紬においても現在の統一された証紙を貼るようになりました。
当時の結城紬の流通量の10%以上は廣田紬扱いのものでしたから、相当数の卸商組合の証紙が貼られていない商品が出回っていたことになります。もし中古市場等で卸組合の証紙がない結城紬があったとしても、反物の端に廣田紬の亀甲絣が織り込まれていれば安心してお使いいただくことができます。
そして場合によっては販売店様オリジナルの証紙が貼られていることもあります。
こちらは銀座の伝説的呉服店(既に閉店)、紬屋吉平さんの結城紬に貼られていた独自の証紙です。廣田紬は女将の浦沢月子さんに大変懇意していただき、お店の結城紬はすべて廣田紬扱いの最高級品でした。
扱う結城紬には卸商の証紙ではない紬屋吉平謹製と書かれた店独自の証紙が貼られていました。廣田紬が卸商の証紙を貼るようになっても、それを剥がしてわざわざお店の証紙に貼り替えておられたのです。顧客も「紬屋吉平」という看板を信頼していますから、卸商の証紙が貼られていなくても特段の問題はなかったのです。
お買い得!? 結城紬のアウトレット品
現在では卸商組合の検査証が貼られていない結城紬は市場から一掃され、本場結城紬の「結」マークは消費者にとってもすぐに判別できるアイコンとなっています。しかし現在でもごく一部の結城紬においては卸商の証紙が貼りつけていない商品が流通していることがあります。
偽物に検査証紙を貼っているケースもあるかもしれませんが、多くは織元が卸商組合の検査を通す(通すことができない事情がある)ことなく、販売店、もしくは消費者に販売を行うケースです。理屈からすると消費者は相場より安く買うことができ、中間流通をカットすることで多くの利益を織元に還元できることになります。
いわゆるアウトレット品ともいえる証紙なし結城紬ですが、少し注意も必要です。
一口にアウトレット品といっても大きく2種類に分かれ、工場から流通段階を省き、メーカー直売される「ファクトリーアウトレット」、 わけあり品を安く売りさばく「リテールアウトレット」 があります。
結城紬の製造は卸商が企画、織元に発注しますのでファクトリーアウトレットは原則存在しません。それぞれのオトナの事情で正規の流通ルートに乗らなかったものが販売されていると考えてよいでしょう。それらについては詳しく事情を聞き、製品がどのようなものであるか(何かしらの瑕疵があるのかどうか)を理解、納得したのであればお買い得なケースもあります。アウトレット品であるが故それらの商品はリセールバリューが著しく落ちることにはなりますが、逆に中古品でそれらを見かけたら更にお買い得品とも言えます。
極めつけは検査組合の証紙すらない結城紬、まともに検査を受けると不合格印が押されることを予見して、あえて検査を受けないケースがこれにあたります。合格点ぎりぎりレベルの商品であればまだよいのですが、それに到底達しない品質の可能性もあります。こうなっては素人には見当がつきませんので販売者の言うことを信じるしかありません。
某百貨店は「紛らわしいの物は陳列禁止」と強い姿勢もあり、コンプライアンスを重視する上場企業ならではのスタンスを取っています。
以上、織物に精通していない素人が証紙なしの商品を購入するのは少なからずリスクを伴います。多少値が張ってもそこは安心料、しっかりと検査組合、卸商組合の両方の証紙が揃った商品を購入するのがベストと言えるのです。