絣は先染め織物ならではの大きな魅力です。インドが発祥とされる…
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問屋の仕事場から
- 2018.07.23
- 絣を読み解く 絣糸作り編②
絣模様を織りなすのに必要な絣糸、前編では防染によって絣糸を作る方法を紹介しました。後編では直接糸に染料をつけて染め分ける手法(直接法)を紹介していきます。
冒頭の写真、結城紬の典型的な飛び柄です。この絣糸をつくるのに糸を括って防染して染めていてはとても非効率なことが分かりますでしょうか。ほんの一部に色を付けたいだけなのに防染する箇所が多すぎるのです。
防染は糸を染料に漬け込む際に染まってほしくない箇所をマスキングする手法がとられていました。糸を一度に束ねて括ってしまうことで効率的に染め分ける手法ですが、防染する箇所が広範囲に及ぶと括る面積が増えて工数がかかります。また多色に染め分けようとすれば、色の数だけ漬け込む必要があります。そこで必要な場所にだけ直接染料を浸透させる技術「摺り込み/捺染」が使われます。
・糸に直接染料を摺り込む
糸を束ねて張り、下書きをした箇所に染料を擦り込んでいきます。昔ながらの筆やヘラで摺りこんでいく方法もありますが、写真のような効率的な装置も使われています。
写真の装置はノズルごとに異なる染料が入っており、間違いのないピッチで位置決めができるように作られています。わかりにくいかもしれませんが茶色の個所が染料を摺り込ませている部分で、この後に白い個所は別の染料を擦り込み色を付着させます。
糸に染料を摺りこむ手法は様々な方法があり、それぞれに応じた治工具が使われています。昔ながらの筆やヘラで擦り付けていく技法は精緻な絣を作るのには向きませんが、絣のずれも人の手によって作られた良い味を演出してくれます。
摺り込みは地糸より濃い絣を作るのに向いた技法で、淡い色の地色に絣模様が入っている場合は擦り込みで作られていると思ってよいでしょう。括って染めるよりかは楽なイメージがあるかもしれませんが、やり直しがきかない分慎重さが求められる作業です。
直接染色法は摺り込み以外の方法でも行われています。型捺染もその一つで、糸に型で捺染することで絣糸を作り出します。織り上がった生地に型をのせる型絵染や摺型友禅とは違い、糸の段階で型を使い染料をつけるのです。型による防染を行い、刷毛で摺ると型抜きされた箇所が染まります。糸の時点で染料を浸透させることで、生地に捺染するのとは違い、織り上がった時に裏表にしっかりと模様が表れるのです。
他にも防染せずに直接染料をつける方法として、染料に糸を垂らすと漬けていない箇所まで染料が吸い上ってきます。細かい柄の染め分けは難しいかもしれませんが、この作用を使うことでグラデーションをもった染め分けをすることができるのです。毛細管現象を利用した普遍的な方法ですが、郡上紬では「どぼんこ染」という独自の呼称がなされていたりします。
以上、防染と直接染色による絣糸づくりについて紹介してきました。
各産地、織り元によって様々な工夫で絣糸づくりが行われており、紹介しきれないユニークな方法もたくさんあります。注目されにくい絣糸づくりですが、その製造方法を紐解くことで織物に対する愛着が一層深まるのではないでしょうか。
ひき続きこれらの絣糸を使って作られる絣模様について解説していきます。