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問屋の仕事場から

2021.12.09
置賜紬に考えされられる証紙のリフレッシュ

2020年に置賜紬の証紙が変更になり、それを見れば新しく作られた商品と、古い商品とを瞬時に区別することができます。

着物に使われる反物、着尺には織り始めに様々な情報が記載されています。白生地の場合はスタンプですが、織物の場合はその出生がわかる証紙が貼り付けられています。

組合が発行する証紙や、伝統証紙には一定の品質検査に合格したという検査証としての役割もあります。結城紬や大島紬といった有名紬は証紙デザインに長らく変更がなく、証紙自体が一目でわかるブランドアイコンとなっています。

大島紬(鹿児島)の証紙、製造元の記載もあるので、信頼して購入することができる。

消費者にとってもこれ以上の安心材料はありませんし、証紙がなければリセール価格が大きく下がります。

この重要な証紙を置賜紬は2020年に刷新、2020年以降に作られるものには新証紙が貼られることになりました。切り替えた理由としては工程をはじめとする事項をわかりやすく表記するためとのことです。

スッキリした印象の新証紙。

冒頭の写真は米琉板締のお召し、ごく少量生産の貴重な逸品です。2020年以降に生産され、弊社が今年仕入れたので新しい証紙に切り替わっています。置賜紬の新証紙、新旧の変化点を確認してみましょう。

以下は旧証紙、

旧証紙、記載に書き込みがなく、判断ができないケースも散見された。

どちらも「置賜紬」と記載されていますが、一目見て違いがわかるデザインです。背景が幾分スッキリして、発行主体の記載までもが「置賜紬伝統織物協同組合連合会」 →「置賜紬伝統織物組合」に短縮、シンプルに見やすくなりました。

注目すべきは産地や工程のわかるチェックボックスが設置されたことです。

チェックボックス、製織機の箇所では語弊を招く表現が健在。

米沢市の草木染、永井市の絣織物、白鷹町の板締小絣の産地に加え、草木染、製織方法、絣の作り方を知ることができます。以前の証紙にも記載はありましたが、記載漏れの曖昧なもの散見されたので、新証紙だととても分かりやすい書式になっています。

伝統的工芸品の置賜紬、度々証紙変更を行っています。

1976年に伝統的工芸品に指定、上記の証紙を作成、最初は産地名の記載のないタイプでしたが「米沢」「永井」「白鷹」を追記したものにマイナーチェンジ。2000年代に入り現在広く知られた旧証紙のタイプにに変更(通商産業大臣→経済産業大臣)、2020年に今回の証紙に変更となりました。

 

証紙リフレッシュの意義

ブランドアイコンとも言える伝統工芸織物の証紙、コロコロ変わるのは問題ですが、20年ほどのスパンで変更するのは当たり前のことです。

変更にかかるコストは人々への周知、看板や様々な印刷物の現物変更を含め大変なコストがかかりますが、トレンドに敏感な会社ほどCI、ロゴを思い切って変更します。facebook社はロゴをコロコロ変えていますし、ついにはMetaへ社名まで変更してしまいました。

アップル社のロゴの変遷、りんごマークアイコンであることは変わらない。

「伝統」工芸品の証紙は悠久の物であるべき、老舗感を演出した方が良いという意見もありますが、それには悪い意味での古さも伴うことがあります。

現在製作されている織物の全てと言って良いかもしれませんが、製造年の記載がありません。令和の時代に作られた商品と昭和に製造された商品と見分けがつかないのです。絹は劣化しますので、消費者としてはできるだけフレッシュな商品を求めたいはずです。

地球儀をモチーフにした地球印の本場大島紬(奄美)の証紙。

例えば大島紬の証紙、業者、消費者問わず一目でわかるお馴染みのものです。証紙デザインに変化はなく、数十年前の商品も同じ証紙が貼り付けられています。素人に可能な証紙から見えてくる新旧の見極めとしては、伝統マークの記載「通産大臣」→「経産大臣」と変化を確認することくらいです。

1995年から貼り付けられている泥染のデメリット表示。

そのほかに様々な小さな変更があったものの、証紙デザインの切り替えはなく、流通の段階では新しいものと古いものが混在して販売されています。昔の商品の方が技術が凝っていたとこともありますので、一概に古い商品が悪いということはありません。ただあまりに古いものだと絹自体が劣化し、着物生地としての強度に疑問が生まれることがあります。

※参考記事:絹織物の鮮度のこと 〜生地の劣化に注意〜

古い反物と新しい反物の見分けがつかない場合、もう一つ弊害が生まれます。それは素性がわからない中古商品と正規流通品の区別を困難にしていることです。20年前の倒産品が、織りたての新品の5分の1の価格で同列に語られては困ります。大量のデットストックの見切り品や中古買取業者などを通じた新古品と産地は戦っていかなければならないのです。

※参考記事:ゾンビに絞め上げられる着物業界 〜マインド、製品アップデートのススメ〜

そこで証紙をリフレッシュすることで、それらの古い商品を一気に陳腐化させることができます。リフレッシュに伴い在庫が陳腐化して困るという販売店、流通サイドのために製造後5年〜10年程度のものを目安に再検査、新証紙への張り替えが可能なよう取り計らいも必要かと思います。

流通過程でダメージののった結城紬の証紙、再検査のちに張り替えることが可能。

新陳代謝が進むことで中古品との競合を健全化することが可能になります。生産数減が避けられない伝統工芸織物、過去に作られた膨大な中古品やデットストックと産地が戦うためには置賜紬のように思い切って証紙のリフレッシュを検討してみてはいかがでしょうか。

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