紬には様々な種類がありますが、中にはクズ繭の組織を機械で裁断…
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問屋の仕事場から
- 2017.09.05
- リーズナブルな紅花紬
紅花紬といえば山形県の県花である紅花を染料に使い織り上げられた織物です。紅花由来の温かな色味が好まれ、値頃な価格も相まって人気を博しています。紅花紬がなぜリーズナブルで魅力的なのか、商品を紹介しながら理由を紐解いていきます。
写真のカラーバリエーション豊かな紅花紬、パステルカラーの地色に様々な色糸を通すことで魅力的な色使いがなされています。ここでは暖色系の糸に紅花が使われています。
紅花からは黄色、紅色の2色を得ることができます。それに藍を加えれば、どんな色でも作り出すことのできる色の3原色が揃います。一口に紅花紬といっても明確な定義があるわけではなく、紅花由来の染料を使用している織物を包括して呼称しているのが現状です。
紅花も数ランクに等級が分かれており、山形県産の最上級の紅をあまり薄めずに作られたものが最高の紅花紬です。普及品は輸入紅であると考えるのが妥当でしょう。化学染料が流入してくる前は紅花染100%の商品も作られていましたが、今ではほとんど見かけることはありません。
そして紅花の赤は日光堅牢度の問題もあり、色褪せ防止の役割もかねて化学染料が併用されます。草木染にこだわるのであれば織物の証紙を確認いただくことが確実です。草木染にこだわった織物であれば染色材料も記載されています。
極論ですが1%でも紅花を使えば紅花紬を呼称することができます。もし紅花主体で染めているのであれば価格は跳ね上がりますが、化学染料を主体にすることで品質の安定を含めたコストメリットを出しているのです。
リーズナブルな理由は織工程にもあります。手間のかかる手織りではなく自動機で工業的に製造されているからです。柄や機械の種類にもよりますが、手織りと機械の仕事効率を考えると何十倍にもなります。機械織りと手織の風合いを比べるとやはり差は現れますが、手織の手間を価格に転嫁した場合、大多数の消費者には納得できないレベルになってしまうのです。
山形産地は伝統工芸織物だけではなく洋装、テキスタイルの分野にもいち早く進出してきました。世界的繊維メーカー帝人の発祥の地でもあり、日本で初めて化学繊維(人工絹糸:レーヨン)を製造したのもこの地です。近年ではクモの糸の繊維化に成功したバイオベンチャーが取り沙汰されています。常に新しい技術を取り入れ、革新を厭わない気風の土地柄なのです。
繊維産業が地場産業として継続してゆくには洋装、テキスタイルの分野への進出が不可欠でした。そして生地を大量に製造するための自動化技術、洋装のセンスを和装に生かすことでコストダウン、幅広い商品展開が可能となりました。他にも決められた工程、材料に縛られない物づくりがされており、工業製品としてVE(Value Engineering)が絶えず行われています。
効率的なものづくりを進める一方、県内の3ヵ所の産地が共同して組合(置賜紬伝統織物協同組合)を結成、これまでの伝統は伝統的工芸品としてしっかりと線引きをして残しています。
山形産地は産業として成り立つ規模の物づくりを継続的に行いつつ、伝統をしっかりと残しています。後継者がおらず手詰まり感を深める他の産地と比較すると、時代の変化にたくましく追随した山形産地は成功しているといえるでしょう。
リーズナブルな紅花紬は「安かろう、悪かろう」のイメージを持っていらっしゃる方がいるかもしれません。しかし英語のreasonableの本当の意味は安いということではなく、妥当な、納得のいく価格という意味です。先人たちの技術を改良し、絶えず前進を続けた山形産地の商品、たいへん魅力的でお買い得といえるのではないでしょうか。
伝統的工芸品、手織りの良さを否定するわけではありません。しかし人件費の塊である伝統工芸織物は一般の人にとって現実的な価格ではなくなってしまいました。今回の紹介の紅花紬は手ごろな価格で紬の良さ、味わいを知ってもらえる実力を備えています。高級品になりすぎた紬のエントリーモデルとしての大切な位置づけです。
今後も山形産地の織物にはたゆまぬ進化を期待したいと思います。