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問屋の仕事場から

2021.07.15
避けては通れない着物の陳列ヤケ 前編

着物に限らず、様々な繊維製品は紫外線の影響を受けて表面の色が変化します。どうしても避けられない退色ですが、染めの着物に比べて織の着物はヤケに強い性質を持ちますが、場合によっては補正が難しいという商品もあります。

生地が光を浴び続けると、元の色が変色して色褪せてしまいます。光源から発せられる紫外線によって、染料を構成する有機物が分解されるからです。紫外線によるダメージはすごいもので、肌の日焼けはもちろん、プラスチックの洗濯バサミがボロボロになってしまった経験があるかと思います。

耐光性に優れた設計のプラスチックも、太陽光で徐々に朽ちていく。@廣田紬の屋上菜園から

紫外線は太陽光だけでなく、蛍光灯などの人工光源にも含まれます。外光が差し込むショーウィンドウに飾ってなくとも、室内展示を繰り返せば少しづつ生地に変化が現れます。特に白生地に友禅染などを施す後染め着物は、先染め着物に比べて変化が起こりやすい傾向があります。さらに仮絵羽の状態で陳列されることが多く、その鮮やかな色と相まって退色が目立ちやすいのです。

絵羽での陳列は全体がヤケることを覚悟して行われている。@丹波布伝承館での展示。

着物は回転率が悪い商材で、何十回もの展示会を経て販売されることも珍しくありません。出品ごとに紫外線を浴び、少しづつ色が退色していきます(陳列ヤケ)が、そういった生地は染織補正という工程で新品同様に蘇ります。補正を前提に作られているといっても過言ではなく、仕立てる前に完全な状態に整備されます。

座布団生地の裏表。洗張りして裏を使うことで新品同様に生まれ変わるのが先染織物の良いところ。

紬のような先染織物は、先に糸を染め分けるという工程ですので、しっかりと染料が浸透します。更に染め分けた糸は簡単に退色しないように時間をかけて寝かされます。白生地の上に染料が載っているだけという染物とは根本的に染色方法が異なるのです。

十分に寝かされて使う先染め織物の糸。

耐光性に優れている先染め織物ですが、やはり陳列ヤケはどうしても発生してしまいます。反物の側面や、撞木に陳列した箇所は長時間光に晒されますし、特に光に弱い植物染料を使った箇所はどうしても化学染料に比べて退色しやすいものになります。

例えば植物染料を使った織物の中でも堅牢度が高いと言われている黄八丈、以下の商品は厳しく見ると退色してしまっているのがわかります。

陳列される面が退色してしまった黄八丈。下が元の色、上が陳列ヤケで色が薄くなっている。

色褪せた大抵の箇所は補正のプロにお願いすれば直すことができます。しかし複数の色使いが細かく全面に入っていたり、絣が入っている生地を直すとなると一筋縄ではいきません。今回のような変わり小市松の黄八丈も難しい部類です。

元通りの色に直す作業は刷毛で染料を載せていく「はき合わせ」という作業になりますが、そこに地色と違う色や、絣があると修正すべきところ以外にまで影響を与えてしまうのです。特に絣の場合、細かく色をいちいち挿していくことは現実的ではなく、どんなプロでも「お手上げ」となります。

全面に絣が入っていると、刷毛での補正が困難。

廣田紬では陳列ヤケした商品の減損見落としを期末に行い、訳あり品として格安で放出していますが、そのようなことを繰り返しては商売上がったりです。

ヤケを防止するにはヤケに弱そうな商品は委託先への貸し出しを制限したり、ヤケやすい商品は出来るだけ陳列せずに丸巻きで積み上げる、極端なことを言えば商品の陳列をやめることですが、それでは商売になりません。

合わせてみると、微妙に色が異なる。化学染料の牛首紬でさえヤケは避けられない。

在庫の回転数を上げて、新鮮な商品を提供していくのがセオリーですが、高額商材ですのでなかなかそうはいきません。

出来るだけ保管に気をつけて暗所で扱うことがベストな選択肢なのです。廣田紬では暗所(土蔵)で在庫を管理しており、在庫を陳列場に積みっぱなしにしないように心がけています。

蔵の商品棚で保管される商品。扉を閉めれば完全に暗室状態となる。

避けては通れない陳列ヤケですが、少しでも紫外線の影響を防ぐためにできる取り組みが、紫外線の発生元となる従来型の光原をLEDに変えることです。

後編では格安でLEDを導入するウラワザを紹介します。

 

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