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問屋の仕事場から

2021.05.03
着物(紬)に生えたカビは除去できる!? 湯通しの効果

繊維製品に限定せず、どんな物でも保管条件が悪ければカビが発生します。大島紬に生えてしまった大量のカビ、キレイに除去することができるのでしょうか。

こちらは廣田紬に湯通し依頼で持ちこまれた大島紬の反物、カビがポツポツと点在しています。かなりの長い間デットストックで放置されていたようで、カビは裏にまで広範囲にわたっています。地色が濃い泥大島はカビが白く浮き出てよく目立ちます。

大島紬を織る際には、絹糸の毛羽立ちを抑え、滑りをよくするために糸全体に糊を添加しています。地元奄美で取れるイギス から作った糊で、これが付着したままだと硬質感が残り、しなやかな本来の風合いを発揮することができません。

経糸と緯糸が無数に交差する織物、滑りをよくするため、糸には潤滑材である糊が必要。

一般的に呉服屋さんでの店頭では糊がついたままで流通しており、消費者が購入してから仕立てる前に湯通し工程で糊を落とすことになります。糊は毛羽立ちを抑えて生地表面の保護の役割を果たしますが、イギスは元は刺身のツマなどでおなじみの海藻、カビにとっても美味しいようで、糊がついたままの生地はカビの温床になってしまうのです。

この商品は製造後20年はたっているでしょうか。いくら新品の反物でも湿気の多いところ(日本)で保管してあればカビが増殖します。

カビが発生している箇所を拡大してみました。白っぽい菌糸が放射状に広がっていることがわかります。いわゆる白カビで、キツイところは繊維の裏にまで通っています。よく冬の間しまいっぱなしにしていた夏物スーツなどにポツポツと白いカビが付着しているアレです。白カビは拭き取れば簡単に除去することが可能です。

白カビは表面を拭うことで一時的な除去が可能。

表面上のカビを除去して見た目は問題なくても、カビは繊維の奥深くまで根を貼ります。アルコールなどで完全除菌しなければ再発してしまう恐れがあります。また、泥大島は地色が黒いので、白カビ以外の黒いカビは目立ちません。これだけ白カビが繁茂していれば、他の目立たないカビもたくさん蔓延っていることでしょう。

何箇所も染抜き屋に頼んで直してもらうのは現実的ではありません、そんな時有効なのが「湯通し」なのです。

※参考記事:本当の風合いを取り戻す反物の地入れ(湯通し)

湯通しは、その名の通り生地をお湯にくぐらせる事をいいますが、素人が自宅で簡単にできるものではありません。織物整理業を専門されているプロに依頼することになります。糸に付着している糊を落とす時には、タンパク質を分解する特別な酵素をお湯に入れて生地を揉み込みます。1反12m以上(疋の場合は25m!)の生地をタライの中で満遍なく洗濯するのはとても大変なことです。

タライの中で大島紬を洗う(イメージ)

糊の落とし具合で、生地の硬さも変わり風合いに変化が出ます。単衣仕立ての場合は糊を抜き切らずにおきますし、帯地でパリッとした風合いに仕上げたい場合は逆に糊を生地に添加させたりもします。理想の風合いに仕上げるための糊の抜き具合の勘所、熟達の職人技が光るポイントです。

今回湯通しでカビ取りをお願いしたのは、この道60年以上もの大ベテランの整理職人さん。カビが広範囲に散らばっていたので心配しましたが、酵素でカビは分解、見事にキレイになって戻ってきました。

あれだけ蔓延っていたカビが一掃された大島紬。

反物を着物に仕立てる直前に行う「湯通し」、付着したカビなどの汚れの除去も兼ねていたのです。

今回はうまくキレイに除去することができましたが、場合によってはカビ痕が残ります。状況を見極めてシミ抜き専門店などの補正のプロにお願いする必要もあります。カビの生えてしまった反物や着物、湯通し、洗い張りで見事に復活させることが可能です。中古品やデットストックで見向きもされなかった着物も見違えることでしょう。

※廣田紬では消費者の方からの湯通し依頼を受けておりません。着物クリーニング店や販売店の方にお尋ねくださいますようお願いします。

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