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問屋の仕事場から

2017.10.25
本当の風合いを取り戻す反物の地入れ(湯通し)

たわむ生地

一般的に織物を織る際には糸に糊をつけます。そうすることで毛羽立ちが抑えられ、糸の滑りがよくなるからです。他には糸の伸縮を抑え、経糸の強度を増す効果もあります。糊付けすることで糸が格段に扱いやすくなります。そのようにして織りあがった織物は硬さ、張りがあります。そこで一旦お湯にくぐらせて酵素で糊を取り除く作業を行うと、本来の風合いを取戻すことができるのです。この作業を地入れ(湯通し)といいます。

糊で固められた経糸、強い張力にも耐えることができる。

結城紬や大島紬は糸に糊がついた状態で店頭に並びます。糊は糸の羽立ちを抑え、平畳みの状態だとバシッと張りがあり、上等に見えるのです。それゆえ高級品である結城紬や大島紬は出荷時点で地入れがされてきませんでした。

反物を折りたたんだもの

毛羽立つ結城紬の表面、糊が付いた状態でないと検査を受けることはできない。

今となっては大島紬は男物(疋もの)以外は巻反が主流となってしまいましたので、あまり意味をなさない状況ではあります。産地での地入れが積極的になされてこなかったことから、職人(織物整理業)が減ってしまい集散地である京都のほうが上手く低コストで行える場合もあります。次工程(問屋や小売店、果ては消費者)が地入れコストを負担するのは少々解せないところではあります。

強い張力に耐えられるようガチガチに糊付けされた結城紬の経糸。

糊付けされた状態で流通した商品は反物を仕立てる直前に地入れを行い、本来の風合いを取り戻させます。たしかに柔らかくなるものの、なかなか定量的な測定は難しいものです。

そこで地入れ前と後の風合いがどのように変化するか、わかりやすい結城紬を例に重量を比べてみました。

はかりに乗せた結城紬

地入れ前の反物、一般的に販売される結城紬は巻き反ではなく平畳の状態である。

反物には糊がついているため、独特の張があります。この状態ですと消費者が店頭で風合いを確かめることはできません。初めて結城紬の購入を検討している方は、本当の結城紬がどのような風合いかお店の人に見本(本場結城紬を扱われているお店ですと、おそらくどなたかが普段着用されているものがある)を見せてもらうとよいでしょう。

重量を計ると581g、サイズからして妥当なレベルです。

地入れが終わった状態がこちら。

黒い結城紬

フワッとした結城紬独特の風合いが伝わってきます。

昔は地入れはせずにそのまま仕立てて使ったといいます。寝巻にして着込むことで摩擦で糊が落ちるのを待ったとか・・・

地入れをした反物が軽く感じられるのは風合いの変化が大きな要因と思っていましたが、実際に重量を比較してみて驚くほどの違いが出ました。湿気も少しは含んでいたにせよ、糊を落としただけでここまで重量が変わるのは驚きです。

500gを示すはかり

なんと500g、本体の重量比で17%もの糊が付着していたことになります。参考までに大島紬は数グラムしか軽くなりません。結城紬の糊は小麦粉を使った独自のもので、2回にわたって念入りに糊付けがなされます。無撚糸である結城紬の手紬糸はその隙間のおかげでたっぷりと糊を吸収するのです。生地の劣化の項でこの糊が生地の劣化を促進させている可能性に言及しましたが、これだけの量が付着していると考えると合点がいくかもしれません。

天日干しされる生地

天日での糊抜き、手前の商品は水分を含んでいるので色が濃い。

糊を抜くことで織物本来の風合いを復活させる地入れですが、着物の解き洗い(洗い張り)もほとんど同じ工程です。洗い張りを経て、うまく仕立て直した着物は新品同様に生まれ変わります。廣田紬には洗い張り依頼で持ち込まれる反物(自社で販売した品物以外にも)があります。その中には元々の地入れが不適切であったため、本来の風合いではない商品がたくさんあります。いくら高級な織物でも最適な地入れがされていないのは本当にもったいないことです。

 

着物によって最適な風合いは異なる

一昔前は販売店様がお客様の好みの柔らかさ、地入れの具合(糊ぬき加減)を指定してきたものですが、最近ではそのようなお店はめっきり少なくなってしまいました。袷なのか、単衣なのかでハリ具合が異なりますし、織物の種類によっても異なるものです。

そして湯通しには織物を熟知した専門の技術が求められます。織物のごとの最適な地風を理解している職人でないと良い風合いを引き出せないのです。廣田紬では商品ごとの最適な風合いを見極め地入れの手配を行いますので安心してお任せください。

 

 

 

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