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問屋の仕事場から

2017.09.11
見事な発想で織られた板締め蚊絣着尺

2点の反物

各産地では多様な絣づけ方法がありますが、山形県白鷹町では板締めという手法で絣を作られています。ぶっかけ染とも呼ばれる独自の染工程は県の白鷹紬紹介のページにて動画で分かりやすく紹介されています。今回はその板締め絣を使った不思議な蚊絣着尺の紹介です。

紹介するのはごく普通の絣着尺、一見すると細かな十字絣で大変手間のかかったであろう見事な商品に思えます。近づいて一つ一つをよく見てみると大島紬でいう一元絣(2本×2本で絣を構成)、風車の形に見えます。

白黒の反物拡大

更に組織を拡大してみると、実は井桁絣に見えることがわかります。ここまで細かい井桁絣は見たことがありません。これを織り込むとなると大変な手間がかかるはずです。しかしこの商品の価格は丁寧に織り子さんが一つ一つかすり合わせをしながら織られたと思われる価格ではありません。大島紬で一元絣で同じものを作るとそれなりの数のロットで倍以上の価格がしてしまいます。何か秘密があるはずです。

井桁絣の拡大

大島紬のような先染めの平織物は裏と表の組織が同じですが、この織物についてはなんと裏表の絣が一致しないのです。写真の通り、井桁絣の中心部に針を刺して裏を確認してみます。なんと地糸と思われる白場から針先が出ていて、裏表が一致しません。

針で生地を指した状態

通常の平織ですと同じ井桁の中心部から針先が出るはずです。この生地は緯糸が経糸を複数本またぐ綾織で織られているので、裏表の組織が完全に一致しない模様に織りあがります。よく見ると黒い経糸は絣糸でないことがわかります。黒い経糸は織り具合で組織の裏表を行き来するようになっているのです。

生地の端っこ

織端の部分の拡大です。緯糸、経糸ともに絣糸を思わせる糸が走っています。しかし絣の太さが他の糸と異なり、黒い絣部分が太いものと非常に細いものが混在していることがわかります。いったいどういうことでしょうか。

緯糸を一本づつほどいて組織を分解してみます。

糸を引き出した状態

絣糸のように見える部分をほどくと、なんとほどいた一本の糸が黒糸と白糸が絡み合って構成されていました。

さらに拡大してみます。すると白糸は途中で黒い部分に染め分けた絣糸です。実は白糸にみえた糸は白黒の絣糸だったのです。これは板締めで均等な間隔で染められており、この絣糸と黒糸を一定間隔で撚り合わせることで独自の絣糸を形成していたのです。板締めの絣糸をからませることで、これなら一応は絣糸ですよというアピールができますし、ランダムな絡み感は手仕事の味に見えなくもありません。

糸を分解する

もう一度井桁の組織を拡大、わかりやすいように一本の糸に色でラインを付けました。経糸が青色、緯糸が赤色です。

組織を分解してみる

一本の糸が白黒に分かれているのがわかりますでしょうか。糸自体が一部白黒で構成されているため、井桁に見えるのです。また経糸、緯糸が一本づつ絡んで織る平織でないこともわかります。

織り端の糸

黒糸×白黒絣糸の組合せ。

絡み糸を使った見事な綾織、絣合わせが不要なため動力織機で織ることが可能です。そして綾織であるが故、光沢があり、しなやかさも併せ持ちます。大島紬の織子さんが見たらびっくりすることでしょう。

絣にこだわるあまり高コスト化してしまった各産地の工芸織物に一石を投げかけるエポックメイキングな商品、伝統にこだわることない山形山地の実力を表すよい例かもしれません。プロも騙されるびっくり蚊絣の解説でした。